自社が「好き」だからできる。タニタの「中の人」が実践するX(Twitter)コミュニケーション術

2018/02/22

企業によるSNSアカウント運用は今でこそ当たり前ですが、キャラが立った運用担当者、いわゆる「中の人」による情報発信は真似したくてもなかなか難しいですよね。

そこでラボ編集部は、2011年からX(Twitter)を始めて2018年2月現在で23万フォロワーを抱えている株式会社タニタ(@TANITAofficial)の「中の人」にユーザーコミュニケーションについてうかがってきました。

Interview ソーシャルメディアラボ副編集長 小東真人

    ■目次

  1. プロフィール
  2. タニタがX(Twitter)を始めた経緯
  3. タニタが話題になったきっかけ
  4. 中の人だからできる情報発信とは
  5. フォロワーの声を商品化に結びつける極意
  6. タニタが自由に情報発信できるわけ

1. プロフィール

株式会社タニタ X(Twitter)運用担当者(以下、中の人)

2. タニタがX(Twitter)を始めた経緯

最初はニコニコ動画から始まった

小東:御社のX(Twitter)運用はどういう経緯で始まったのですか?

中の人:そもそもSNSの取っ掛かりはX(Twitter)ではなく、実はニコニコ動画でした。

2008年5月に現社長の谷田千里が就任したのですが、当時「社長室」という部署があって、そこで新しいことに取り組もうとしていました。そこで、当時はやりはじめていたニコニコ動画から始めてみました。

ニコニコ動画は当初、営業担当の女性社員が運用していたのですが、ツンデレっぽい感じのキャラ付けをして販促に活用していました。実際に営業を行っているので弊社製品を扱っている店舗に出向いたりして。それ以外にも社長自らが「商品のこういうところ良いです」と、こだわりの部分を紹介PRするなど、もともと動画中心で行っていたのです。

私は入社2年目の2009年に「ニコニコ動画をやってくれ」と言われてSNS運用に関わり始めました。私も、もともと営業を担当していたので、8割5分は本業に注力していましたが。

開始当初、数値目標は無かった

中の人:実際にX(Twitter)を始めたのは2011年です。当時はNHKさん(@NHK_PR)などがX(Twitter)を運用していて話題を集めていた時期です。テキストベースで更新できて、無料で告知できると知り、弊社でもやってみることにしました。最初は他社のアカウントが、日記のようなツイートをしていたので、それを参考にしていました。

小東:忙しい業務の時間を割いてSNS運用をされていたと思いますが、その時の数値目標とかはありましたか?

中の人:数字の目標は特になく、勝手にやっていたのです。強いて言えばフォロワー数でしょうか。単純にわかりやすくゼロから始まっていますし。

一応、他の企業さんをベンチマークにしていました。例えば5,000人いるとか10,000人いるとか、チェックして始めていました。ただ、だからといって「10万人にします!」とかいう大きな目標は無かったですね。

小東:ちなみに、ご自身はプライベートでSNSをよく使っていましたか?

中の人:やってないですね。ニコ動の時もそうですが、別にITに詳しいわけではなかったので勉強しながら始めていました。それも企業としてX(Twitter)をやるので、どんなものかなって探りながらやっていました。

3. タニタが話題になったきっかけ

シャープさんに絡む

小東:2011年から始まって、ユーザーさんに知られるきっかけは何だったんですか?

中の人:大きく2つあって、シャープさん(@SHARP_JPに絡んだことと、X(Twitter)でユーザーさんの声を聞いて、それを商品化したことですね。

まず一つ目のシャープさんに絡み始めたことですが、2012年だったと思います。当時、企業アカウント自体はありましたが、企業アカウント間のコミュニケーションというのはあまりなかったんです。

堅いイメージのある企業がゆるーく会話するって珍しかったのですね。なので、タニタとシャープって全然違う会社なのに「なんでこういう風に仲良いんだろう」ってユーザーさんが興味を持ってくれたのかなと思っています。

小東:最初は、意図してシャープさんに絡んでみたんですか?

中の人:いや、実はそれが覚えていないのです。

小東:え、きっかけは自然な流れだったんですか?

中の人:うーん、シャープさんがたまたま弊社に来ていた時があって、リアルで一度会っているのですよね。X(Twitter)運用担当者つながりで。ただ、その時はそこから連絡を取り合うということもなく。

それである時、私から「だれか友達になってくれないかな」みたいな感じでつぶやいたら、シャープさんが「じゃあ、X(Twitter)の中で(仲良く)やりましょう」みたいなことを応えてくれまして。

そういうのが数回あって。シャープさんも私も、最初は非常にまじめで、ほとんどが「今日もいい天気ですね。おはようございます」というレベルの会話だったのです。

それが、徐々に砕け始めたという印象ですね、お互いに。「言ってもいいんだ」みたいな。そのうち「シャープとタニタがなんかいちゃいちゃしている」って言われ始めたというか。

小東:2012年あたりから、企業のX(Twitter)活用が少しずつ活発になり始めたんでしょうか?

中の人:その辺りですね。その時に、キングジムさん(@kingjim)とか、井村屋さん(@IMURAYA_DM)とかセガさん(@SEGA_OFFICIAL)とか、目立ってきたという感じです。単発じゃなくて、企業同士の関係性が見えるという感じが新しかったですよね。

ユーザーからのコラボ依頼に応える

小東:2つ目のユーザーさんの声を聞いて商品化とは、どういう経緯だったんですか?

http://www.karadakarute.jp/tanita/event/tigerandbunny.jsp

中の人:最初に「タイガー&バニー」っていうアニメとコラボレーションしました。ユーザーさんと絡んでいた時に、この「タイバニ」の話を振られたのですが、私自身はこのアニメをそれまで見たことがなかったんですよ。当初は「コラボしてくれ」って言われても「ちょっとわからないです」って…

小東:それからどうしたんですか?

 

 

中の人:取りあえず、わからないので、「どういうところが良いんでしょうか?」とかいろいろ質問していたら製作元のサンライズさん(@SUNRISE_web)がX(Twitter)で絡んできたのです。

 


それからタイバニについてファン層とか調べて、社内で企画書を通して、それをツイートしていました。

 

 

2012年に商品ができて、2013年にタイバニの映画が完成しました。企業に雇われたヒーローが出てくるという設定のアニメなのですが、実際に企業がプレイスメントできるようになっていました。そして、弊社もあるキャラクターにロゴを入れるって話になったのです。

「ソフトバンク」とか「ロッテ」とかロゴの入ったキャラクターと並んで、「タニタ」のロゴが入っているキャラクターがイベントで発表された時、話の背景を知っている人が多かったから会場の幕張メッセがワァーっと沸いて。

タイバニとかいろいろ公開されて、2013年に48,000人だったフォロワーが2014年には80,000人になりました。

小東:ほぼ前年度の倍ですね!

 

 

中の人:そうですね。それ以降、2015年は148,000人。2016年が170,000人。去年2017年が230,000人。中の人同士で旅行に行くといった企画があったり、話題のテレビネタや漫画ネタに乗っかったりして、毎年何かしらで盛り上がっていました。

4. 中の人だからできる情報発信とは

一部の人しか分からないネタもツイート

中の人:みんながわかることもツイートしますが、ある一部の人しかわからないネタもツイートします。そういう「はい。わかる、わかる」というコアなネタも大事かなと思って。

すごく共感してもらえるし、それがコミュニケーションにつながります。

例えば子供の時に面白かったゲームとか。その話をすると、特定の世代はわかるけど若い子はわからない。でも、別にそれはわからなくてもいいのです。

ですが、今話題の「ポプテピピック」の話でしたら、若い人は知っていますよね。そんな風に、いろんなターゲットや世代に対して話題を提供していこうと考えています。もちろんその分、勉強しないといけないのですが、それまで知らなかったことでも、それがきっかで私自身も好きになったりしますし

小東:みんなにわかることもあるし、特定層にしか分からないツイートを色々話題にだすこともあるんですね。

中の人:そうですね。

X(Twitter)上の話題事をフォロワーから学ぶ

中の人:アニメとかが分かりやすいですが、フォロワーさんの動向からX(Twitter)上の話題を知りますね。他の公式X(Twitter)アカウントの人たちもみんなチェックしていると思います。

 

 

例えばこの前の「シン・ゴジラ」の地上波放送の際も、一見して関係ないですがフォロワーの間で盛り上がっていたので乗っかってみました。あの時は最初にゴジラの体重をツイートしました。

歴代ゴジラで体重が全部違うんですよ。そういう情報ってタニタとしては親和性高いというか、自然ですよね。シン・ゴジラの映画の実況をする時でも、取っ掛かりはそれだけでいいんですよ。それを1回やったらあとは何を言ってもいいのです。

だからシャープさんが出てきて「落ち着け」とか言われて

話題に乗るために伏線を多めに張る

小東:話題に乗っかるために意識しているポイントってありますか?

中の人:いろいろなことに伏線を張っていますね。とにかく種を撒いておくということを心掛けています。

小東:文脈が無いとツイート内容がバラバラになってしまいますものね。ある程度「これ流行りそうだな」というものに張っておくんですか?

中の人:そうですね。今も張っているものたくさんあります。

さっき言った「ポプテピピック」も張っていますよ、やるかどうかはわからないですけど(笑)。「シャープさんとやるんでしょ」とか言われるのですけど「やらないです」って。「歌も歌いません」とかって。

5. フォロワーの声を商品化に結びつける極意

小東:ちなみに今まで他の企業さんと一緒に、ユーザーさんの意見から商品化したのはどれくらいの数あるんですか?

中の人:どれくらいでしょうか? 先ほどのタイバニも含めて、15、6個ありそうです。なかでも面白い事例として、タミヤさんとミニ四駆用のはかりを作ったことがあります。

http://www.tanita.co.jp/product/g/_TKD192TM/

ミニ四駆の上級者の中には重さをはかる人がいるそうで、ネットで調べたらはかりを使っているんですよね。その文脈でタミヤさんといろいろ話をして、専用の商品を作っちゃいましょうと。

小東:これもやっぱり「重さをはかる」っていうタニタならではの文脈があったんですね。

中の人:そうです。この商品の面白い点が、もともと普通のクッキングスケール、料理用のはかりということなんですね。通常は女性が購入するケースが圧倒的に多いのです。でも、この商品は9割くらい男性の方が買ってくださいました。弊社の中でも非常に面白いマーケティングになりました。こういう企画で既存商品をアレンジすると、全然違うユーザーにお使いいただけるのだなと。

小東:ちなみにそのスケールはどこで買えるんですか?

中の人:タミヤさんのオンラインショップとかミニ四駆の大会の物販でも売っていますし、タニタのオンラインショッピングサイトでも販売しています。販路については、意図的に限定しています。大手ECサイトなどで販売すると価格競争に巻き込まれるケースがあるので、こうした商品については、ブランドをしっかり守りながら売っていきたいと思っています。タミヤさんのファンの方はそこで買ってくれるので無理に拡販する必要もないですし。

小東:販売して、フォロワーさんの反応はいかがですか?

中の人:「タニタなら、何かやってくれるんじゃないか」という雰囲気が出てきたと思います。

その流れでコアな話題を選んで商品化を進めると、他にはあまりないということで、フォロワーさんに喜んでいただけるのだと思います。やはり弊社はメーカーなので、商品化に結びけるのが本来の目的ですので、一石二鳥といえるかも知れませんね。

6. タニタが自由に情報発信できるわけ

会社のことが「好き」だから発信できる

小東:最後に、SNSの運用方針について質問です。「タニタ」というブランドを背負って情報発信するにあたって、企業からのレギュレーションとかに苦しめられることはないのでしょうか?

中の人:そうですね。コンプライアンスの話でいうと、最低限のルールはもちろんあります。しかし、投稿の内容を事前に上長がチェックすることはありませんし、基本的に自由にできます。

それで、なぜしっかり情報発信できるかというと、もともと会社が好きだからでしょうね。健康に興味があって新卒で入っていますし、単純に好きなのだと思います。会社に対して愛情がないと、嫌々やってしまうということもあると思います。

それと、健康って「体重をはかること」だけじゃないですよね。たとえばアニメを見るとか、「好きなことをやって生き生きしていること」も健康につながると思います。その見地で、「健康」に絡めて自由に発信できているから、とてもやりがいを感じています。

小東:とても勉強になりました、ありがとうございました!

この記事を書いた人:小東真人

ソーシャルメディアラボ編集長。地方や中小ビジネス向けセミナーなどを担当。
17年ガイアックス入社のデジタルネイティブ世代。靴磨きが大好きで、休日はInstagramで関連アカウントばかり見ている。

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