わずか51日で11万件のユーザー投稿、4億円の広告効果。マーケティング大賞“奨励賞”受賞の『おにぎりアクション』の裏側を探る

2017/05/30

食べ物が足りない開発途上国と、食べ物が余り食によって健康すら害している先進国。この不均衡を解決しようと活動するNPO法人『TABLE FOR TWO』。同団体が昨年開催した、SNSを活用したキャンペーン『おにぎりアクション』は、わずか51日間で約11万件の投稿を集め、開発途上国へ85万食の給食を届けることを実現。

さらには『第9回日本マーケティング大賞』で奨励賞を受賞、アジアのマーケティング専門家が表彰する『AMF アジア・マーケティング・エクセレンス賞』に、日本代表としてノミネートするなど、注目を集めています。

約4億円にも上るという広告効果を実現した『おにぎりアクション』について、TABLE FOR TWOの大宮 千絵氏にその裏側を伺いました。

プロフィール

大宮 千絵氏:NPO法人TABLE FOR TWO International(TFT) Chief Marketing Officer(CMO)

大学卒業後、日産自動車株式会社入社。市場調査室にて、7年間グローバルマーケットリサーチ業務に携わる。3年目ごろから、プライベートでNPO法人TABLE FOR TWO International(TFT)にボランティアとして参加。2013年11月より、産休・育休を取得。2015年3月、日産自動車を退社。15年4月より、TFTに正社員として勤務。

TABLE FOR TWOの活動と『おにぎりアクション』とは

大久保:はじめに、TABLE FOR TWOがどのような活動をされていらっしゃるかを簡単に教えていただけますか?

大宮:TABLE FOR TWO(以下・TFT)は2007年に日本で立ち上がったNPO法人です。当時70億人いる世界人口のうち、約10億人が開発途上国を中心に食べ物が足りない飢餓状態。一方先進国は食べ過ぎて、肥満と生活習慣病に苦しんでいる人が約20億人もいる。同じ地球上で、かたや食べ過ぎで健康を害していて、かたや食べ物が足りず健康を害している、この不均衡をなんとかしようと始まったのが、TFTの活動です。

仕組みはとてもシンプルでして、社員食堂やレストランでヘルシーなメニューを提供。それを一食食べていただくと、20円が寄付金となってアフリカ・アジアへ届く。アフリカでは20円あれば学校給食一食分が賄えます。

このプログラムを英語で説明する際は、カロリートランスファープログラムと呼んでいるのですが、一食食べると、実は地球の裏側にもう一人いる子供が食べられる。だから『TABLE FOR TWO』二人の食卓と呼んでいます。

大久保:今回の『おにぎりアクション』はどういった内容だったのでしょうか?

大宮:内容はとてもシンプルです。おにぎりの写真を『#OnigiriAction』というハッシュタグを付けてSNSまたは特設サイトに投稿すると、アフリカ・アジアの子どもたちに給食が届くというものです。

参照:TFT提供資料

シンプルじゃないと伝わらない。おにぎりを選んだ背景

大久保: TFTさんが『おにぎりアクション』をはじめたきっかけは何だったんでしょうか?

大宮:もっと身近にTFTの活動に参加できる方法を作りたかったからです。元々TFTは参加型の社会貢献で、一人ひとりに参加してもらい世界をよくする取り組みです。ただ参加するためには食堂やレストランなど特定の場所へ行く必要があり、そこへ行く機会がない人もたくさんいました。TFTの活動に参加したいのにその場がなくて参加できないというリクエストを以前からたくさんいただいていたんです。

そこで、個人でもできる活動を作れないかと考え、より身近なもので参加できる仕組みを考え始めたのがおにぎりアクションのはじまりでした。

大久保:なるほど、では身近にある食べ物のなかで、なぜおにぎりを選ばれたのでしょうか?

大宮:おにぎりはとてもシンプルに、気持ちやメッセージを伝えることができる素材なのではないかと考えたからです。

私は前職でマーケティングの仕事をしており、CMなどがお客さんへちゃんと伝わっているかという調査を行っていました。さまざまな業界のCMを何百本と調査し、どういうものは伝わりどういうものは見られていないのかを調べました。結論は、本当にシンプルなメッセージでないとお客さんは全然振り向いてくれないということ。本当にシンプルで、強烈なメッセージ性を持つものでないと伝わらない。それをTFTでやるとしたらなんだろうと考えでてきたのが、「おにぎり」です。

おにぎりに気づいたきっかけは、TFT代表の小暮がイタリアで日本の食を世界に広げる活動をしていて、そのイベントの写真を見たときでした。大量にある写真の中ですごく印象的だったのが、イタリアの人がすごくたくさんのおにぎりを握り、すごく笑顔で運んでいる写真でした。それを見た時私は温かみを感じて、おにぎりは気持ちやメッセージを伝えることができる素材なんじゃないかと思ったんです。おにぎりはお母さんだったり大事な人に握ってもらう機会の多い食べ物。そういう心に残るメッセージ性をおにぎりであれば込められると考えました。

投稿を促す仕組みは『ゲーム性』

冒頭でも述べたとおり、わずか51日間の期間でユーザー稿数は11万枚。計85万食分の給食が寄付されることとなった『おにぎりアクション』。その広告効果を試算すると4億円に上り『第9回日本マーケティング大賞』で奨励賞を受賞。NPO法人では初の受賞となりました。これだけ大成功を納めた背景にはさまざまな要因がある一方、その主軸となったのはゲーム性にあったと大宮さんは振り返ります。

大久保:これだけの規模までおにぎりアクションが拡大した背景はどういった点にあるとお考えでしょうか?

大宮:おにぎりアクションが盛り上がった最大の強みは、そのゲーム性にあるのではないかと考えています。元々キャラ弁という文化があったりと、おにぎりはデコレーションできるものとして認知されている。キャラクター的にデコレーションされたり、季節ごと、たとえばハロウィンの時期であればハロウィンと掛け合わせたものが出てきたりとゲーム的に楽しめるんです。これが他の食べ物ではなかなかできませんよね。

今回投稿が多かったInstagramはゲーム性との相性が特に良く、食べてる顔写真よりも、おにぎり自体や食卓を撮ってアップしてくる主婦の方々がたくさんいらっしゃいました。家庭で大事な人のためにおにぎりを握り、それをアップすると『いいね!』と言ってもらえるのがすごくうれしいそうです。

ハッシュタグの選定、『#OnigiriAction』にも大きな意味が

大久保:投稿キャンペーンの場合、ハッシュタグ選定も重要だと思うのですが今回はどのようにして決められたのでしょうか?

大宮:参加者がハッシュタグを付ける視点と、一般ユーザーが投稿に付けられたハッシュタグを見る視点に分けて考えました。

まずハッシュタグを付ける視点ですが、ユーザーの投稿ハードルを下げるという観点を重視しました。『#~寄付』のようなハッシュタグだと、社会貢献をする聖人のように思われてしまい、自分とは遠い存在になってしまう。そうではなく、ゲーム性を持っておもしろいことしてると思えることがすごく大事だったので、『Action(アクション)』という言葉を選びました。

また一般ユーザーが投稿のハッシュタグを見る視点は、「なんだろうこれ?」と思ってもらえるようなフックになる名前を意識しました。『#おにぎり2016』だと地味ですし、おにぎりが多く映っている写真だろうぐらいに思われてしまう。そんな事を考えながら『#OnigiriAction』というハッシュタグに決まりました。

大久保:今回これだけ投稿された背景は、ハッシュタグによるところも大きいですね。

ハッシュタグから生まれたコミュニティ

大久保:今回のキャンペーンで特徴的なのが、期間中継続的に投稿されている点ですよね。

参照:TFT提供資料

大宮:そうですね、また今回継続的なのびにつながったのはコミュニティの力もあったと思います。認知が広まってくると『#OnigiriAction』をつけて投稿している人同士で、ハッシュタグを見合うようになってきたんです。あなたのおにぎりいいね!あなたの食卓いいね!と交流が生まれ、自然とコミュニティになっている。お互いに励ましたり盛り上げたりして、「毎日投稿できなかったけど」というと「いやすごいですよ。一か月半で何回も投稿してるなんてすごい」という話をされているかたもいらっしゃいました。

伊藤園の『お~いお茶』とタイアップさせていただいた際にも「『お~いお茶』と一緒に撮れば10食分らしい!買ってこなきゃ!」という会話が生まれていました。ユーザー同士でキャンペーンの内容を教え合っていて、後半になればなるほど『お~いお茶』の出現率が増えていくんです。

https://cp.itoen.co.jp/lp/tfto1610/end.html

大久保:コミュニティができることは事前に予測されていたのでしょうか?

大宮:いえ、やってみてはじめてわかったことでした。正直、こんなに交流が生まれるのかと驚きました。平日のお昼になると一分間に何十件も上がってきますし、スタッフも個人的に投稿していたりするのですが、『#OnigiriAction』をつけるとエンゲージメントが普段の数倍にもなるんです。コミュニティとしてハッシュタグが盛り上がっている印象を強く受けましたね。

アクションへつながった、ピックアップ

大久保:アクションを拡散するために、運営側で特に注力して行ったことなどはありますか?

大宮:公式サイトやFacebook、Instagram、X(Twitter)でのピックアップは継続的に行いました。投稿していただいたものからピックアップして紹介していたのですが、ピックアップされたものが拡散されたり、ピックアップされることをモチベーションに継続的に投稿してくれる方も結構いらっしゃいました。

また『おにぎりグランプリ』も盛り上がりを担保する上では大きな役割を担ったと思います。募集段階でテーマを分けておくことで、テーマに合わせてさまざまな写真を投稿してくれるんです。純粋なおにぎりの写真だけではなく、おにぎりと一緒に写る姿だったり、おにぎりにまつわるエピソードだったり、さまざまな者が集まることで写真としても面白いですし、投稿する側、投稿を見る側としても興味深い内容になったと思いますね。

http://jp.tablefor2.org/campaign/onigiri/

キャンペーン成功のセンターピンとは?

大久保:多くの要因が絡み合って大規模に広がったおにぎりアクションですが、そのセンターピンはどこにあるとお考えですか?

大宮:やはり『おにぎり』という素材がよかったのだと思います。誰かのために何かしたいっていう思いは割と皆さんが持っているんです。でも、毎日の中でどうしていいかわからない。そこへおにぎりという大事な人のために握るものが、アフリカの子どものためにもなると、気持ちを重ねやすいんです。なので、個人がだれかのために何かしたいって思いをすごく身近なところで実現できるという点がおにぎりアクションのポイントだったのではないかと思います。

身近な人のためにという気持ちをおにぎりという形で出す。その個人個人の気持ちがたくさん集まれば、世界に85万食届けるという大きなことが達成できる。まるでドラゴンボールの元気玉みたいだねとメンバーは話していたのですが、多くの人に、身近なところから世界を変えられる可能性感じてもらえたのではないかと思いますね。

『おにぎりアクション』2017年の展望

大久保:今年も『おにぎりアクション』は開催されるのでしょうか?

大宮:昨年と同じタイミングで秋から開催する予定です。昨年分が終わった後も、おにぎりの写真は引き続きアップされているので、今年はとても楽しみですね。

大久保:今年はどのような点でチャレンジされていきたいと考えていらっしゃいますか?

大宮:昨年と引き続き、おにぎり自体で遊んでもらうこと。そして場の可能性をもっと広げることは挑んでいきたいと思いますね。

昨年感じたところで、ゲーム性はまだまだ拡がる余地があると思っています。お弁当でもすごくデコレーションしたおにぎりだが出てきていて、たとえばおにぎりつくるアイテムとかもいっぱいあるんです。ラップだったり、スタンプ押すものだったり、のりを切るものだったり。そういったおにぎりの可能性をもっと広く知ってもらい、より広げていけたらいいなと思っています。

あとは食べる場所。山奥や海といったアウトドアはもちろん、車の中や、新幹線の中。いまもあるんですが、飛行機で富士山を眺めながらおにぎりとか、新幹線で背景を映しながら『#OnigiriAction』をしていただいている人もいます。こちらは地球上至る所でできますから、もっと可能性がある。まだまだ広げていけると思いますね。