オウンドメディアはもういらない?ソーシャルメディアを活かした『中心のない分散型メディア』の未来
2015/08/21
先日公開した初代編集長・井出と2代目編集長の末広の対談記事はお読みいただけたでしょうか? メディア運営について先見の明のあった井出さんが語る「これから求められるメディア」について、我々としても学ぶべきところの多い対談となりました。
今回は、対談の中で出てきた「中心のない分散型メディア」について考察を深めていこうと思います。数多のウェブメディアが乱立し、ユーザー側はどのメディアを見ればいいのかわからなくなっている今、オウンドメディアにコンテンツを集約させることではなく、中心を持たずにコンテンツを流通させる仕組みが本格化しています。こういった分散型メディアのメリットや問題は何なのか? これからのメディアのあり方を考えていきましょう。
参照記事:分散型メディア事例記事
■目次
1.そもそも分散型メディアとは? オウンドメディアを中心としたコンテンツマーケティングとの違い
2.分散型メディアのメリット・デメリット
3.短い動画の配信メディア『NowThis』に見る、先行者の運営方法
そもそも分散型メディアとは? オウンドメディアを中心としたコンテンツマーケティングとの違い
オウンドメディアにコンテンツを集積していき、各コンテンツをソーシャルメディアで拡散し、それを見たユーザーをオウンドメディアに誘導してファンになってもらう。現在さまざまなメディアを運営している方は、そうやってメディアブランドを確立させていこうと考えているのではないでしょうか?
これはソーシャルメディアが力を持ち、情報拡散に強大な力を持ち始めたからこそできる仕組みかと思います。もちろんGoogleやYahoo!などの検索エンジンから訪問してくれるユーザーを増やすことも引き続き重要ですね。どちらにしろメディアというものは、ホームと呼ばれるメインのページがあってこそというイメージが強いのではないかと思います。
昨年あたりから日本でも流行り始めたコンテンツマーケティングの一環とも言えるこの仕組みは、自前のメディア(=オウンドメディア)を持って情報発信し、顧客と良好な関係を築くことで収益につながる行動を誘引することを目的としています。
しかし、それとは真逆の発想で生まれたのが分散型メディアです。
まずは以下のイメージ図をご覧ください。
オウンドメディアにコンテンツを集積させてブランド価値を高めようとする中央集権的なコンテンツマーケティングの仕組みに対し、分散型メディアは中央が空洞になっています。つまりコンテンツを集積させるオウンドメディアがなく、それぞれのコンテンツは各ソーシャルメディアに合った形に編集され、直接流通させていくのが分散型メディアです。
オウンドメディアを中心としたコンテンツマーケティングはソーシャルメディアが力を持つことによって生まれたと言われていますが、ソーシャルメディアがもはやインフラのレベルにまで強くなった今、わざわざオウンドメディアに足を運んでもらう必要があるのか? 分散型メディアはそんな発想から考えだされました。
※ちなみにこんな突飛な発想をしたのは、バイラルメディアの元祖として瞬く間に成長したBuzzFeedのベン・スミス氏だそうです。外部コンテンツをキュレーションする形で成り立つメディアだからこそ生まれた発想なのでしょうね。すべてが自社コンテンツであれば、なかなかこういった発想には至らないと考えられます。
参考記事:
もう自社メディアはいらない?分散型メディアでコンテンツは流通する
“バイラル”の次にくるもの/「分散型 BuzzFeed」構想の衝撃
分散型メディアのメリット・デメリット
さて、オウンドメディアを持たずにコンテンツを流通させる仕組みと聞いて、果たしてそんな形式のメディアがうまくいくものなのか疑問を持つ人も多いでしょう。
ここでは分散型メディアとオウンドメディアによるコンテンツマーケティングを比較し、それぞれのメリット・デメリットを挙げていきたいと思います。
分散型メディア
・オウンドメディアを維持するコストやリソースが必要なくなる。もしくは最低限に抑えられる
・Facebook、X(Twitter)、Instagramなど各々のソーシャルメディアに適したかたちにコンテンツを編集しなければならない
・SEOによる流入が限りなく見込めなくなるため、コンテンツ毎に勝負をかけることになり消耗戦となる可能性がある
・元々の流入メインがSEOであった場合や、ソーシャルメディアでの拡散を見込みにくいコンテンツには向かない
オウンドメディアによるコンテンツマーケティング
・オウンドメディアに誘導することで、広告料で収益を出すウェブメディアに最適な構図となっている
・メディアの飽和とコンテンツ消費の変化により、SEOに頼って着地ページ(オウンドメディア)で稼ぐ従来の仕組みは、将来性がない
・検索エンジンのアルゴリズムが変わることによる影響が大きい。そもそも検索という仕組みの重要性が減っていく可能性がある
・ユーザーはもはやメディア単位でコンテンツを消費しておらず、その流れは今後も加速すると考えられる
いかがでしょうか。分散型メディアについてはまだ先行成功者と呼べるものがいないため、メリット・デメリットともに推測レベルの部分が多いのが現状です。
ポイントは、どちらか好きな方を選べるのは現在の話で、今後メディアのあり方は「分散型」に変わっていくだろうと予測されているということです。つまり、好む好まざるに関わらずコンテンツマーケティングのかたちは変わっていくと考えて運用していった方がいいことになりますね。
前述したBuzzFeedも、現状はバイラルメディアとして盛んに更新がなされています。あまりに巨大になりすぎて、簡単に舵を切ることができないのでしょうか? とはいえ昨年夏に50億円の資金調達を行なった際、BuzzFeed Distributedと呼ばれるコンテンツ流通部門が新設されたことからも、分散型メディアおよびコンテンツの方向性を模索していることが伺えますね。
短い動画の配信メディア『NowThis』に見る、先行者の運営方法
ちなみに海外ではいち早く分散型メディアとして運営しているところがあります。短い動画コンテンツを月間500本近く制作している『NowThis』という新興メディアがそうで、これまでに1100万ドルの投資を受けるほどに有望視されています。
ウェブメディアを運営する方であれば、30名もの社員を抱えられる程の収益をどうやってあげているのか気になりますよね。NowThisはいわゆるページに置く広告を使わず、クライアント企業から依頼された動画コンテンツをつくったり、通常の動画コンテンツと親和性の高い広告主の名前をヘッドラインにクレジットすることで収益を上げているそうです。ヘタすると広告制作会社になってしまうため、その塩梅には最新の注意は必要でしょうが、確かにそれなら収益源を保ったまま分散型メディアを運営できそうですね。
また、従来のメディアではコンテンツの制作を、政治・経済・文化・エンタメ・恋愛などのカテゴリやチャネルごとにチームをつくって対応していたところが多いかと思います。しかし分散型メディアのNowThisでは、一風変わった仕組みでコンテンツを制作しています。
ホームとなるメディアを持たない以上、カテゴリで分けることの意味も薄れてきます。それよりも大事なのは、コンテンツを配信する各ソーシャルメディアの特性やユーザー層をきちんと理解し、適切に編集できる能力です。つまり、ソーシャルメディア毎にコンテンツ制作チームを置いた方がいいというのがNowThisの考え方なんですね。
カテゴリで分けてしまうと、Instagramに戦争や政治問題のコンテンツをアップするにはどうしたらいいか悩んだり、Facebookにバズらなさそうなコンプレックスビジネス系のコンテンツを放り込んだりと無益な行動をしかねません。なので、分散型メディアには各ソーシャルメディアに精通している人の確保が重要になってくるのではないでしょうか。
参考記事:
「分散型コンテンツ」の本質と稼ぎ方—先駆者「NowThis」の全貌
分散メディア革命/NowThis News が示す Webサイト消滅への道
最後に
インターネットネットメディアの運営において、誤クリックまで期待した従来のクリック型広告システムは日増しに単価が下がり、今後いかにマネタイズしていくかが全メディア喫緊の課題であることは間違いありません。その中で、コンテンツと同じフォーマットで提供されるネイティブ広告が、きちんと広告であることをクレジットしておくのが前提として、最も将来性を感じられる収益源ではないかと考えられます。
しかし所詮は広告モデルの変化に過ぎず、ビジネスモデルの転換とまではいかないのが現状です。オウンドメディアのようなストック型から、ソーシャルメディアのフロー型にコンテンツ流通が移り変わることで、消耗戦になる可能性は多分にあります。
きちんと運営されているインターネットメディアが正当な収益をあげられるよう、今、ビジネスモデルの革新が求められています。
以上、「オウンドメディアはもういらない?ソーシャルメディアを活かした『中心のない分散型メディア』の未来」でした。
この記事を書いた人:ソーシャルメディアラボ編集部