SNS女性利用者の半数にも上る「見る専クラスタ」 企業は彼女たちとどう関わればよいのか
2017/08/03
SNSでソーシャルリスニングをするだけでは見つからない「発信せず、情報収集をメイン」に活用する「SNS見る専クラスタ」。トレンダーズの海野氏は、この「見る専クラスタ」の存在を明らかにしようとリサーチを行い、先日レポートを発表しました。
レポートによれば、その数はSNS利用者の半数にも上るといいます。これからのSNSを用いたビジネスにおいて知っておかなければいけない「見る専クラスタ」の実態、そして対策について、調査を行った海野氏に話を伺いました。
Interview / ソーシャルメディアラボ編集長 大久保亮佑
- ■目次
- プロフィール
- 「SNS見る専クラスタ」調査とは?
- コアでない層の実態を明らかにしていく
- 各SNSで約半数以上が「見る専クラスタ」だった!
- 企業アカウントは見る専クラスタとどう関わるべき?
- 「見て専クラスタ」をどう上手く活用するか
- SNSきっかけの消費。「妄想消費」とは
- 今後大きなトピックになる動画
1. プロフィール
海野秋生 氏:トレンダーズ株式会社 クリエイティブDiv. PRSJ認定PRプランナー
2. 「SNS見る専クラスタ」調査とは?
大久保:今回の「SNS見る専クラスタに関する調査」の内容を簡単に教えていただけますか?
海野氏(以下、敬称略):SNSの使われ方の変化を捉える1つの視点として、「SNS見る専クラスタ」というものがどれほど存在するのか。そして彼らの行動がどのようなものかを明らかにするために調査を行いました。SNSは本来コミュニケーションツールですが、近年では、「分散型メディア」のトレンドや、企業公式アカウントでのプロモーションの増加で、「知人の投稿」以外のニュースや新商品・新サービスの情報が溢れるようになりました。
そういった情報環境の変化に合わせ、ユーザーの行動も変化しています。そこで登場したのがSNSを「見ているだけ」の「見る専クラスタ」と呼ばれる人です。マーケティングの分野ではソーシャルリスニングなどでユーザーインサイトを探りますが、見る専クラスタの人は発信しないため、そういった調査では表に出てこない。ただ確実にその数はいます。
その表側には出てこない存在の実態を暴くことはマーケティングでも役立つと考え、実情を探ったのが今回の調査です。
3. コアでない層の実態を明らかにしていく
大久保:たしかに実際のソーシャル上には出てこないけれど、実態を知らないことには行動もできません。調査を行うきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
海野:会社としてインフルエンサーのサービスを手がける中で、SNSユーザーの全容を把握できていないのではと疑問を感じたのがきっかけでした。インフルエンサーのような発信者はコアな層です。それを見る受け手側はどの程度存在し、何を感じているのかといったところをデータにできないかなと考えました。
また、私自身含めこのレポートを一緒に作ったメンバーが「見る専クラスタ」でして。私たちのような人がもっといるはずですし、私たちの場合、SNSは友人・知人の投稿を見に行くだけでなく、情報収集にも使っています。
同じような行動を行っている人はもっといるのではないか、ユーザー情報だけでなく行動心理、インサイトのようなところまで利用実態としてしっかりとまとめておくべきだろうと考え、今回の調査を行いました。
4. 各SNSで約半数以上が「見る専クラスタ」だった!
大久保:調査の中にはいくつもの気になるトピックがでてきていますが、実際に調査をされていく中で特に印象的だった点があれば教えていただけますでしょうか。
海野:そもそもの数がかなりいたことでしょう。調査では「自らは発信せず、情報収集をメイン(閲覧頻度は週に1回以上、発信頻度は月に1回以下)」に活用している女性を「SNS見る専クラスタ」と定義。このユーザー層にセグメントして調査を行いました。
事前調査として「見る専クラスタ」がどの程度いるかをみたのですが、X(Twitter)は46%、Facebookは77%、 Instagramは52%でした。各SNSユーザーの半数から8割近くもいることが明らかになったのです。想定を上回ってかなりの人数がいるというのが正直な印象でした。
また、SNSごとのカラーの違いも明確に分かれたのは面白かったですね。X(Twitter)は瞬間的・刹那的だったりするので「見る専クラスタ」が比較的少ないです。
当初仮説としては圧倒的にInstagramに「見る専クラスタ」が多いだろうなと思っていたのですが、意外にもFacebookが多い。Facebookは実名制なので投稿のハードルが上がって、「見る専クラスタ」の人が増えているんじゃないかと考えています。
5. 企業アカウントは見る専クラスタとどう関わるべき?
大久保:なるほど。今回個人的にも興味深いと感じたのが、企業アカウントに求められている役割に関する部分でした。多くの企業にとってこれからのSNS運用の参考になるのではないかと思いますが、その点はどのようにお考えでしょうか。
海野:投稿に対してリアクションを行うきっかけの話ですね。個人の投稿に対するリアクションの場合応援したいといった理由でリアクションをするのですが、企業の場合、画像がおしゃれ、面白いと思うといった理由がリアクションを行うきっかけになります。
1つベンチマークとして考えられるのは、SHARPさんのX(Twitter)アカウントでしょう。本当に中の人の個性が分かるような投稿を中心にされていて、かなり自由度が高い企業アカウントです。投稿が面白いのと、企業アカウントが自由にやっているという点で注目を集め、人気のアカウントとなっていますね。
大久保:なるほど。”企業アカウント”としてコミュニケーションを取るよりも、”企業の中の人”としてコミュニケーションを取る方が良いのでしょうか。
海野:ことX(Twitter)に関しては、おっしゃるとおりだと思います。どのSNSでもリアリティが評価される時代ですし、X(Twitter)の場合、中の人が活躍するアカウントも文化として定着してきています。
人気が出ればまとめがつくられたり、拡散されたりしやすい。それがエンゲージメントに繋がっていく動きは1つあると思っています。情報収集ツールとしてのSNSという点ではLINEや、Facebook Messengerで情報を流す企業も増えています。各SNSにおいて、これからは1対1で消費者の心を掴む施策が求められているのです。
6. 「見て専クラスタ」をどう上手く活用するか
大久保:今回の調査では「見る専クラスタ」だけでなく、「見て専クラスタ」についてもリサーチされていらっしゃいました。その点についても気づきなどを教えていただけますでしょうか。
海野:「見る専クラスタ」の対極にありそうな存在が「見て専クラスタ」です。おしゃれな料理の写真やフォトジェニックな最新スポットなどの他人の目を引く「キラキラ投稿」を積極的に行い、自分自身のブランディングにも活用する人々です。
「見て専クラスタ」はいわゆるインフルエンサーの中のワンクラスタ。インフルエンサーが全員「見て専」というわけではありません。調査で明らかになったのは「見て専クラスタ」の人のフォロワーには、単純なフォロワーだけでなく、真似はしないけどつい気になって見てしまう人もいるようです。
クオリティの高い投稿をしているので、投稿の内容に対する憧れ要素はしっかりと提供できる。こういった「見て専クラスタ」が自発的に投稿をしたくなるようなキャンペーンやハッシュタグを戦略的に作っていくことがうちのビジネスでもありますし、今後引き続き求められていくものだと思っています。
先日MarkeZineの記事に弊社の者が書いた記事が掲載されましたが、ハッシュタグをはじめとした「キーワード戦略」は、SNSの場合、特にハッシュタグなどの分野で強く必要になってきます。もちろんSNSに限らず、キーワード戦略を考えることはマーケティング全般において大切になるでしょう。
7. SNSきっかけの消費。「妄想消費」とは
大久保:調査ではSNSが消費や行動のきっかけとなるというデータもありました。具体的にどのようなプロセスで行動に繋がるとお考えでしょうか?
海野:以前弊社で発表した調査レポートに記載しているのですが、女性がものを買うとき、もはやGoogleで検索する人よりも、Instagramで検索をしてから買う人の方が多いんです。良かったら買って、投稿してシェアするインフルエンサー層がいて、それを見ていいなって思うフォロワー層がいる。
Instagramがなぜ購買まで繋げられるかというと、その人の生活に馴染んだ状態の判断ができるからです。自分がこれを使った時にどんな自分になれるかを妄想できる。この妄想に掻き立てられた結果、消費する行動のことを「妄想消費」と弊社では名付けました。Instagramを用いたキャンペーンやマーケティングを行う際には、ユーザーが自分の生活に置き換えて“妄想”出来るように「画像の力」を特に重要視するようにしています。
※「インフルエンサー型」「フォロワー型」で変わる消費行動モデル SNS 時代の新たなキーワードは「妄想消費」の資料より引用
社内でも特にInstagramを担当する部署などは、画像をどのように作り込むかをとても大切にしています。たとえば、本当にこの商品のパッケージを写したほうがいいのか。パッケージが読めなくても、普段の投稿の雰囲気や世界観に合う写真を作れた方がいいのではないか。といった具合に、ビジュアルコミュニケーションや世界観は特に大切にしています。
8. 今後大きなトピックになる動画
大久保:今回の結果を経て、今後このような調査を行っていきたいといったものはありますでしょうか。
海野:「見る専クラスタ」の中の企業投稿の受け取り方や、メディアの投稿の話、好感度がどのように変化するかといった点はより深掘りできるだろうと考えています。先ほどの個人としての発信がいいのか、企業としての発信がいいのかといったところはより深掘りすべきだと思いますし、購買導線がどうなっているかもより調査していくことが実際のビジネスに役立つだろうと考えています。
大久保:今後SNSの使われ方の変化に関しては、どのような点を注目してみていらっしゃいますか。
海野:動画は大きなトピックの一つだと思っています。社内でも動画マーケティング戦略室が最近立ち上がって、SNSも含めあらゆる場面で動画に注力する体制を構築しています。
これまでの画像やテキストと異なり、動画には動画の最適解があるはずです。たとえばブランディング目的だったらこういうクリエイティブが良く、こういう情報経路が良く、といったことですね。その最適解を調査分析することは1つ注目すべき要素だと思います。