自社コミュニティ作りはなぜ難しい? 今注目されるコミュニティマーケティングで重要な考え方
2018/04/04
ブランドのファンを増やし、コミュニティを通じてプロモーションを行うコミュニティマーケティング。
「コミュニティマーケティングの考え方自体は、20年ほど前から存在します。ただ、デジタル化に伴うSNSの普及、これによる個人の発信力の高まりに影響され、ここ1年で急に注目が高まっている」と語るのは、クアッドスペース株式会社の前田裕司氏です。
前田氏に、コミュニティマーケティングに注目が高まる背景と、コミュニティマーケティング実践のコツ、要諦についてお伺いしました。
Interview / ソーシャルメディアラボ編集長 大久保亮佑
Text & Photo / ソーシャルメディアラボ副編集長 小東真人
- ■目次
- プロフィール
- コミュニティの魅力
- コミュニティが注目され始めた背景
- 成功する企業は何が違うのか?
- コミュニティマーケティングで大切なこと
1.プロフィール
前田裕司 氏:クアッドスペース株式会社 代表取締役社長
コミュニティマーケティングを手がけるクアッドスペース株式会社を2017年12月に設立。同社の代表取締役社長を務める。執行役員を務めた前職(京橋ファクトリー)からコミュニティマーケティングに従事。コミュニティマーケティングを通じた事業開発やコンサルティング事業を担当。
次世代マーケターのための交流イベント「TUNA会」(ツナカイ)の運営の設計やKPIの設定、オンラインのコミュニティ設計などにも携わる。
2.コミュニティの魅力
特定のテーマで人が集まる「コミュニティ」
大久保:そもそも、なぜ「コミュニティ」に着目されたのでしょうか。
前田:前職の京橋ファクトリーという会社でWebメディアを運営していたのですが、事業として成長させていくことに限界を感じたことがきっかけです。
Webメディアを「メディア」としてしか捉えられないでいると広告収入でマネタイズすることになりますよね。ところが、ウェブメディアの広告単価は減っていくと予想されるため、今後は収益が頭打ちになってしまうことが読めるわけです。そこで、PV数とは別の指標ではかることができる新しい価値をつくりだす必要があると考えました。
それから「人が見ているもの」ではなく「人が集まるもの」としてメディアを捉えるようになりました。
同時期におこなっていた新規事業で、イベントに協賛をつけるサービスを展開したのですが、ここでも壁にあたりました。イベントというのは結構水物で。いつ開催すると何人集まるかを予測しきれないため、企業様に協賛いただいても、安定して満足いただくことが難しいという課題にぶつかったのです。
そうして行き着いたのが「コミュニティ」です。特定のテーマを中心に、人が自然と集まる「コミュニティ」であれば、ある意味イベントの集合体と捉えることができ、安定的に人を集めることができます。
自然と人が集まって魅力を広げられる
大久保:コミュニティの価値や、活用するメリットについて教えてください。
前田:特定の層の方が当事者意識を持てるような、ベストフィットする呼称やフレーズをつくることで、そのセグメントに当てはまる人たちが「これは、まさにわたしのことだ」とアイデンティティを認識して、日常的にその呼称やフレーズを使ってくださる。
すると、なにか特定の「バズる」記事を書かなくても、SNS上でハッシュタグをつけて普段使いをしてもらいながら、自然とメディアの知名度が上がっていき、コミュニティが形成されていきます。なかにはメディアづくりに携わりたい(ライターになりたい)という方まで、現れたりするケースもあります。
このように「コミュニティ」を活用することで、特定のことに関心を抱く人たちが自然と集まり、そのコミュニティを通じて、メディアの認知やコンテンツの魅力を広げられることにメリットがあると思います。
例えば、わたしが執行役員をしていた会社のケースとしては、ビールが好きな女性(#ビール女子)をターゲットにしたものがありました。ビール会社様とタイアップして、商品開発などをおこなうコミュニティをつくったときには、すぐに50名もの参加者が集まりましたね。
大久保:ビール×女性ですか。そういう風に区切っていくと、本当にたくさんの種類のコミュニティができそうですね。
3.コミュニティが注目され始めた背景
大久保:定義や理解が多様であるにせよ、コミュニティマーケティング自体の注目度は、高まっていると考えてよいのでしょうか?
前田:ここ1年で、一気に「コミュニティ」という言葉を広告主の方から聞くようになったと強く感じます。広告主の方自身がコミュニティサービスを展開されるケースもでてきています。
大久保:注目が高まった背景は何なのでしょうか?
前田:マスマーケティングが衰退、デジタルマーケティングが複雑化するなかで、新たに「わかりやすい」手段として注目されているのだと思います。
デジタル化によって、マスマーケティングは特に若年層に対して効きにくくなっていますし、広告市場において、様々なプレイヤーが登場し、また様々なデジタルコミュニケーションツールが誕生しています。
さらにFacebook、X(Twitter)、Instagram、LINE、その他の動画チャネルも発達している。このように、様々なプレイヤーとコミュニケーションの手法があるため、どこにどれほどの広告を出したらよいか、わかりづらい状況になってしまった。
この点、「コミュニティ」は、明確に自社のブランドに興味がある人、そして自社のブランドと関連することに興味のある人にアプローチができるため、広告主にとってわかりやすいのだと思います。
大久保:自社ブランドコミュニティは企業にとっては魅力的ですよね。
前田:たしかに、自社ブランドコミュニティを作りたいという企業は多いですが難しいのが現状です。ブランド・商品を起点としてコミュニティ作りできる企業は一握りです。この企業のニーズと現実との乖離が、いまのコミュニティマーケティングにとっての課題でもあります。
ですから、もうすこし広いカテゴリーをテーマにして人を集めて、そのなかで特定の企業のブランドとつなげていくようにしています。
例えば、特定の飲料メーカーの水に興味関心のある人というのは、そうそういないため集めにくいですよね。ですが、「水全般」に関心のある、健康志向の強い方は一定数いる。だから、まずは「水全般」に関心のある方をターゲットにします。
このような段階を踏まずに、はじめから特定の企業のブランドを「売り込んで」しまってはかえって失敗してしまいます。したがって、コミュニティマーケティングでは、お客様が知りたいこと、嬉しいことはなにかという視点から考えたコミュニケーションがとても大切です。
4.成功する企業は何が違うのか?
「売り込まずに、お客様と向き合う」がまだ浸透しきっていない
大久保:そういった「売り込まずに、お客様と向き合う」というコミュニティマーケティングの手法はすぐには効果が見えにくいため、なかなか企業側からの理解をえるのが難しいと思います。
前田:そうですね。
実際のところ、現在企業の方は新規顧客の獲得を目的に、コミュニティマーケティングを検討されるケースが多いのですが、担当者の方がコミュニティマーケティングの手法に共感してくださっても、社内で「新規の獲得したいんだったら、リスティング広告の方がいいんじゃない?」と言われてしまい、コミュニティマーケティングが実践できないケースも多々あります。
まだ日本での成功事例も少ないため、企業様の方で「なぜコミュニティマーケティングでなければならないか」を説得していくことが難しい状況です。
一方で、コミュニティマーケティングを実践できている企業は、まさに「お客様を大切にする」「お客様と本当に向き合ってコミュニケーションをできる」ところに利点を感じてくださっています。実際には経営者の方が共感して、トップダウンで実践されるということが多いですね。
例えば、よくコミュニティの話で出てくるヤッホーブルーイングさんも、お客様を大事にするという視点でコミュニティ施策が始まったと聞きます。ECサイトを運営する一方、最初は赤字を出しながらお客さんとのコミュニケーションを一体一くらいで頑張ったところ、赤字が回復していったと。
まさに同社は「お客様を大事にする、お客様を知っていく」という視点から、実際にイベントをされてコミュニティを作っているそうなんです。
人が共感できるコミュニティの存在意義があるか
大久保:では、実践されている企業のなかで、成否を分けるのは何でしょうか。コミュニティマーケティングで成功する企業と、失敗する企業は何が違うと思いますか。
前田:まず、やはり「なんのためのコミュニティなのか」という設計がしっかりしていることは、コミュニティマーケティングが成功するために、必要な要素だと思います。
会社と一緒で、自分たちがなぜ集まっているのか、何のためにあるのか、社会のどういったことをどのように変えていきたいのか、という部分が明示的であれ黙示的であれ、共有されていなければ人は集まりにくいですよね。
コミュニティとして発達することも難しいと思います。人と人が共感しあえてこそ、人は集まるのだと思っています。ですので、コミュニティの存在意義、根底の理念をきちんと考えていくことをお勧めいたします。
5.コミュニティマーケティングで大切なこと
大久保:最後に、コミュニティマーケティングを検討している方に向けてメッセージをお願いします。
前田:コミュニティマーケティングというものはすぐに成果が出るものでは決してありませんし、今日コミュニティマーケティングをやったからといって「何ヶ月後に、売上に何パーセント寄与するのか?」と問われても明確に答えられるようなものでもありません。
ですので、コミュニティマーケティングには長い目線で向き合ってほしいと思っています。そうでなければ、せっかく実践いただいても、社内で「うまく行ってない」と見なされてしまい効果が出る前にやめさせられてしまう、もったいない結果に陥りかねないですので。
もう一つは、やはりコミュニティにあつまる人たちを「ものを売る相手」としてとらえてしまわずに、仲間として大切に向き合うこと。担当者も「セールスマン」ではなく仲間としてコミュニティに向き合う。こうした、お客さんと真摯に向き合い、大切にするという姿勢を継続してほしいと思っています。
この記事を書いた人:小東真人
17年ガイアックス入社のデジタルネイティブ世代。靴磨きが大好きで、休日はInstagramで関連アカウントばかり見ている。