ソーシャル上でブランドのファンを可視化。スパイスボックスが仕掛ける口コミマーケティングに迫る!

2018/08/01

アンケートやインタビューなどが中心だった従来のマーケティングリサーチ。

FacebookやX(Twitter)、InstagramなどのSNSが一般的になる中で、「ソーシャルリスニング」と呼ばれるソーシャルメディアからユーザーのトレンドや傾向をリサーチする手法が今、改めて注目されています。

その中で先日株式会社スパイスボックスが、企業やブランドがコミュニティ形成のためにアプローチすべき 「トライブ」やブランドの「ファン」を主要SNSから発掘できる「ソーシャルトライブ調査」をリリースしました。

今回は同社の大月 均氏に「ソーシャルトライブ調査」の開発背景や活用方法についてお伺いしました。

Interview / 小東 真人
Text & Photo / 大木 一真

    ■目次

  1. プロフィール
  2. デジタルシフトにより、生活者の態度変容の仕方が変わった
  3. 「ヒト」を軸にした分析からコミュニケーション設計まで
  4. 個人のアカウント単位で分析可能な「ソーシャルトライブ調査」
  5. 「ヒト」による情報の広がりを有効活用

1.プロフィール

株式会社スパイスボックス ブランドコミュニティ事業 事業部長:大月 均 氏

2.デジタルシフトにより、生活者の態度変容の仕方が変わった

小東:そもそも貴社がこの「ソーシャルトライブ調査」を始めた背景にはどのようなものがあったのでしょうか。

大月氏(以下、敬称略):デジタルシフト、スマホファーストと言われて久しいですが、企業やブランドのコミュニケーション領域においてもようやく本格的に変化が起きているなと、この2、3年感じています。

もちろん、テレビを中心としたマスメディアもリーチ効率の良いメディアとして、主に認知獲得に長けている部分もあります。しかし、デジタルシフトによって生活者の情報接触のあり方は大きな変化を遂げています。

デジタル・コミュニケーション・カンパニーであるスパイスボックスでは、こうした流れを捉えたブランドコミュニケーションのアップデートを目指し、現在はソーシャルメディア上で好意や共感を持って生活者に広がる広告コミュニケーション、「エンゲージメント・コミュニケーション」の支援に注力しています。今回ローンチした「ソーシャルトライブ調査」もその一貫となるソリューションです。

「ソーシャルトライブ調査」の開発において特に重視したのが、単なる認知獲得ではなく“態度変容まで促す”という視点です。態度変容とは、たとえば「誰かに伝えたくなる」、「欲しくなる」、「やってみたくなる」といったこと。ソーシャルメディアの登場によって、今生活者はそうした影響を受けやすくなっています。

興味や関心、繋がりのある人(インタレストグラフやソーシャルグラフ)を介する情報接触が主流となることで、自分と親和性のある情報が向こうから勝手にやってくるような状態が生まれているのです。この流れをブランドコミュニケーションに活かさない手はないですし、活かすにはどうするべきか、と考えたのが「ソーシャルトライブ調査」を開発したきっかけです。

当社には、もともと「ブランド・エンゲージメント調査」という、企業やブランド、およびその周辺事象について、どんなことがソーシャルメディア上で語られているのかを調査・分析できる「コト」軸のソリューションがあります。今回の「ソーシャルトライブ調査」は、「ヒト」軸に着目したアプローチです。

3.「ヒト」を軸にした分析からコミュニケーション設計まで

小東:「ヒト」にフォーカスした理由は何ですか。

SNSやスマホの浸透によって現代の生活者は膨大な情報にさらされていますが、その中から信頼できる情報を見つけ出すために「口コミ」が積極的に利用されています。特にFファクターと呼ばれるFriend, Family, Fans, Followerからの情報は重視され、信頼されていることはよく知られているかと思います。逆に、アドブロックやビューアビリティなどの課題もあり、広告枠を通じた企業からの一方的なメッセージは届きにくくなっています。

つまり、生活者に情報を届けるためには、特定の領域において強い影響力を持つ人、インフルエンサーやTOL(トライブ・オピニオン・リーダー/特定のトライブ、コミュニティなどで強い影響力を持つ人)をハブにすることが効果的と言えるのです。

「ソーシャルトライブ調査」では、SNS(主にInstagramやX(Twitter))上のデータを分析して企業やブランドに親和性のある「トライブ(人の集まり)」やTOL、ブランドのファンといった「人」をアカウント単位で精度高く発掘することができます。そうして見つけた「トライブ」や「人」を、企業やブランドと生活者を繋ぐコミュニケーションに活かしていくのです。

スパイスボックスでは、この「ソーシャルトライブ調査」からその結果を用いたコミュニケーション設計、施策の実行までの一連のソリューションを「Brand Community」として提供しています。

4.個人のアカウント単位で分析可能な「ソーシャルトライブ調査」

小東:「ソーシャルトライブ調査」はどのような特徴があるのでしょうか。

大月:まず、トライブやTOLについてもう少し具体的にイメージするために、昨今注目を集める話題の一つ、「ワークライフバランス」を例に見ていきましょう。

この図のように、「ワークライフバランス」というテーマ・文脈の周辺には、人事系のリアルコミュニティもあれば、フリーランサーやパラレルキャリアに関心を寄せる人たちなどもいます。

また、それらと近接したり、重なり合うような形で、移住や二居住拠点、マインドフルネス、さらには丁寧な暮らし系など、それぞれの属性や価値観、ライフスタイルに根ざした様々なトライブやコミュニティが存在します。これはTOLについても同様です。いわゆるマイクロインフルエンサーとは、こういった各領域の中で濃い影響力を持つ人たちと言えます。

全体像を俯瞰しつつ、SNSのハッシュタグ、投稿内容、それを発信しているユーザーの分析を通じて、「自社ブランドを取り巻くトライブやTOLの生態系」を詳細に把握していくことが調査の特徴です。

小東:調査結果からはどのようなことが分かりますか。

大月:この調査は、企業が自社のファンやポテンシャルユーザーを理解するための手法として非常に有効です。

既にブランドや商品に関する多くの投稿が存在している場合は、その投稿を起点とした分析を行っていくことで、ユーザー像を掴むことができます。

具体的には、まずは分析のキーとなるハッシュタグを決め、それを含んだ投稿を大量に抽出します。さらに、その投稿を行なっているアカウントの「プロフィール」や「過去の投稿」、「投稿へのエンゲージメント」などを一通り分析していきます。

以下はそのプロセスの一例ですが、投稿に頻出するハッシュタグの並び方や割合などをもとにクラスタリングを行っているものですが、分析に用いるデータの量は精度にも影響があるため、このような定量的なアプローチも随所に採り入れています。

▲トライブ分類のプロセス図

ただ、最終的には当社のアナリストが個々のアカウントの投稿内容やタイムライン全体の世界観なども目視で定性的に分析したうえで、トライブの分類や定義、TOLの選定などを行っています。

小東:ハッシュタグを軸に、そこまで調査と分析をされるんですね。

大月:はい。ちなみに、たとえば新商品や新ブランドだとそもそもユーザーによる投稿は存在しませんし、すでに発売している商品でも「投稿はほとんどない」といったケースもあると思います。しかし、そのようなケースでも、ベンチマークとなる他ブランドの投稿やターゲット層が好んで使用するハッシュタグ、投稿などを分析することで、自社と関連性の高いトライブやTOLを導き出すことが可能です。

また、先ほどお話しした“自社ブランドを取り巻くトライブやTOLの生態系”を客観的に把握できることにも価値を感じていただいています。自社ユーザー以外の層についても俯瞰して体系的に捉えることで、「どの層を重視していくのか」、そのために「どういったアプローチをとっていくのか」、などについて、確かな仮説を持って戦略を考えやすくなるからです。

5.「ヒト」による情報の広がりを有効活用

小東:「ソーシャルトライブ調査」の結果は、具体的にどのような施策に繋がるのでしょうか。

大月:ブランドや商品の課題や調査の目的によって異なります。ただ、アウトプットとしては、発掘したTOLに対してサンプリングを行ったり、ファンミーティングやイベントに参加していただく、といったことが多いです。

大切なことはブランドや商品を実際に体験していただくことなので、手法自体はすでに行われているものでも問題ありません。まずは既存施策にTOLをライトに活用することで、どんどんフィードバックを得てブランドとしての経験を蓄えていくことがポイントです。そういった活動が、企業やブランドに関する口コミを増やしたり口コミの質を向上させていくことにも繋がっていくと考えています。

生活者が単に受動的に情報を得るだけではなく、生活者同士で日常的に情報を発信、共有し合う現在において、企業が広告を使った一方的な情報発信を行っても、もはやその情報は生活者に届きにくくなっています。

自分たちが届けたい情報を、自分たちが届けたい相手に的確に伝えていくためには、「ヒト」を軸とした情報の広がりを味方にできるかどうかが大切です。

現在、様々な企業で行われている「口コミ」施策には多くの課題が見受けられます。情報流通のあり方が根本的な変化を遂げ始めているこのタイミングで、「口コミ」の本質的な意義や自社の向き合い方などについて、多くの企業が今一度考えるべき時期に差し掛かっているのではないでしょうか。

小東:ありがとうございました。

この記事を書いた人:小東真人

ソーシャルメディアラボ編集長。地方や中小ビジネス向けセミナーなどを担当。
17年ガイアックス入社のデジタルネイティブ世代。靴磨きが大好きで、休日はInstagramで関連アカウントばかり見ている。

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