2週間でトレンド入り8回、150万シェア!X(Twitter)でバズりまくった”キットカット”のバレンタインキャンペーンのヒット要因を探る
2017/04/20
今年のバレンタイン前後に、X(Twitter)を騒がせていたキャンペーンをご存知ですか?
その名も「バレンタインポスト」。ポストモチーフのゆるかわいいキャラクターがチョコをおねだりし、バーチャルチョコをユーザー同士で贈り合えるという一見シンプルなキャンペーンなのですが、2月頭からバレンタインデーまでにハッシュタグが複数回トレンド入りし高いシェア率を記録するなど、驚異的な効果を叩き出しました。
今回はバレンタインポストキャンペーンの仕掛け人であるの中村 大祐氏にお話を伺いました。ヒットの要因や若者のSNSの使い方に関する気付きなどをお話いただきます。
Interview / ソーシャルメディアラボ編集長 大久保亮佑
text / 青木麻里那
- ■目次
- プロフィール
- ネスレのバレンタインポストのキャンペーン概要
- シェア150万回!トレンド入り8回!企業のキャンペーンとしては驚異的な拡散を記録
- なぜここまでヒットしたの?【狙い通りだったポイント】
- なぜここまでヒットしたの?【ぶっちゃけ予想を超えていたポイント】
プロフィール
中村 大祐氏:株式会社パーティーアソシエイトクリエイティブディレクター/テクニカルディレクター
プロジェクトに関わられた以下の方々にもインタビューにお答えいただきました。
・阿久津 達彦氏:株式会社パーティー インフォーメーションアーキテクト
・石塚 美帆氏:株式会社パーティー アートディレクター
・大津 裕基氏:株式会社パーティー コピーライター
・長井 崇行氏:株式会社バードマン クリエイティブディレクター
・元吉 恒晴氏:株式会社バードマン テクニカルディレクター
ネスレのバレンタインポストのキャンペーン概要
大久保:まず簡単に、キャンペーンの概要を教えてください。
中村氏(以下敬称略):大枠としては、SNSを通してバーチャルチョコを送りあえるキャンペーンです。プロモーションする商品はネスレさんの”キットカット ショコラトリー(※)”でした。キャンペーンページでSNSアカウントにログインすると自動でバレンタインポストが作成され、バーチャルチョコをおねだりしたり、誰かに贈ったりできます。
でも、ただ「バーチャルチョコをおくり合いましょう!」と言っても参加してもらえないだろうと思いまして、「チョコをおくり合うサービス」ではなく「チョコをもらえるサービス」という設計にしたんです、具体的には、最初に「おねだり投稿」をする設計になっています。
おねだり投稿のリンクをクリックすると、チョコを贈る画面に遷移
このおねだり投稿で、SNS上にチョコを受け取るためのポストを置くイメージです。「簡単にチョコがもらえるよ」というところからコミュニケーションが始まると、意外にみんな「チョコください」と言ってくれるようになる。この投稿をクリックすると、その人にバーチャルチョコを贈るところからスタートします。
大久保:なるほど。キャンペーンのゴールはどういったところだったんですか?
中村:ゴールは主に2つです。1つ目はバレンタインチョコとして”キットカット”を選んでもらえるようにすること、2つ目は”キットカット ショコラトリー”の認知度を高めることです。メインは後者でした。
※”キットカット ショコラトリー”とは
ネスレが運営するキットカット専門店。シェフが監修したプレミアムな”キットカット”などを販売している。
立て付けとしてはバレンタイン自体を盛り上げる施策という見せ方になっていますが、贈り合えるチョコは”キットカット ショコラトリー”の商品を含めてすべて”キットカット”になっています。これでバレンタインに”キットカット”を選ぼう、友チョコならいつもの”キットカット”でもいいし、本命チョコでも”キットカット ショコラトリー”があるよ、という風な認知効果を狙っていました。
大久保:”キットカット”の利用場面を拡大するためのキャンペーンとして、SNSと連携してバーチャルチョコを贈り合えるキャンペーンを実施したということですね。
シェア150万回!トレンド入り8回!企業のキャンペーンとしては驚異的な拡散を記録
大久保:キャンペーンがヒットしてかなりシェアされたとお伺いしたのですが、最終的にどれくらい拡散したかなど、可能な範囲で数値を教えていただけますか?
中村:トータルシェア数が150万回に到達しました。
通常のキャンペーンだと、シェア率は高くて5%くらい。10万人が参加して5,000シェアくらいが平均ですね。でも今回のシェア率は、なんと30%くらいにまでなりました。参加者は約62万人で150万シェアなので、1人で何回もシェアしているということになります。これは今までに無かったと思います。
大久保:たしかに企業のキャンペーンでそれだけのシェア数は聞いたことが無いです。
中村:しかも150万回のシェアは公式ページからのものだけで、その他の関連ツイートは含んでいないんです。「バレンタインポスト見てたら食べたくなって、”キットカット”買ってもうた(´・ω・`)」みたいなツイートもされているので、実際はよりたくさんのシェアやリーチが生まれています。
あとはキャンペーン期間中に、関連ハッシュタグが8回もトレンド入りしたのも異例かなと思います。「#バレンタインポスト」や「#バーチャルチョコ」などでトレンドの1位に8回も入りました。
大久保:それはすごい広告効果ですね!
なぜここまでヒットしたの?【狙い通りだったポイント】
大久保:ここからは「なぜキャンペーンがここまで当たったのか」を伺えればと思います。キャンペーンの設計や拡散手法で工夫した部分などを教えてください。
中村:機能が結構多くて複雑なので、「明確にこの要素が良かった!」とはいいにくいのですが、大きく分けて4つのポイントを解説しますね。
おねだりから始まるチョコの贈り合いスパイラル
中村:まず冒頭にお伝えしたとおり、「おくりましょう」ではなく「もらいましょう」から始めたところ。「もらえるかも」という期待が参加の動機になるし、おねだりするから贈る側も贈りやすくなりますよね。バーチャルチョコをもらうとそのチョコをまた配れるので、おねだりしている人に贈ってあげようという流れになる。こうやってバーチャルチョコの贈り合いが活発化します。
さらに奏功したのが「みんなにおくる」機能。一人ひとりに贈るのではなく、置きチョコ的な感じでみんなに配れる機能を付けたんです。
▼みんなに贈ったときの投稿。商品画像の露出効果も期待できる。
こうすることで贈る相手を選ぶ手間もなくなり、参加のハードルが下がります。かつこの機能は結局タイムラインに投稿しないと意味がない、誰にも贈れないことになるので、キャンペーンの流れのなかに自然にシェアを組み込めるわけです。
もうひとつ仕込んだのは「秘密の送り主」という機能。特定の人にチョコを送るとき、誰からのチョコかわからないような設定ができるようにしました。送り主はバレンタイン当日に開示されます。
これはバレンタイン当日までキャンペーンが盛り上げる意図でやったのですが、チェーンメール的な要素も付けていて、チョコを3人以上に贈らないとバレンタイン当日になっても送り主が見れないんです。
なので秘密の送り主からチョコが届いた人は、最低でも3人にはチョコを贈ってくれるという。バレンタインの特別なドキドキ感を上手く活用できたかなと思います。
ほどよい自由度のキャラやメッセージでアレンジの幅を作る
中村:キャラクターのデザインや設定にもかなりこだわりました。チョコを贈り合うということでポストモチーフを使ったのですが、キャラクターのデザインはちょうどLINEスタンプで人気があるような、かわいいんだけどちょっとシュールとかキモめとか、中高生がとっつきやすいものを意識しました。
イラストは徳永明子さんという方にお願いしたのですが、この線が強くてシンプルなキャラクター画と、ちょいベタなキャラ設定がわかりやすくてウケたと思います。X(Twitter)上では「このポストのキャラ、○○(アニメ名)のあのキャラに似てる!」みたいにユーザーが勝手に投影してくれたりして、2次創作にもつながっていきました。
チョコを贈る際のメッセージも、贈る対象別の定型文も用意しつつ、自由入力もできるようにしました。友チョコ、本命チョコ、というように「~~チョコ」というメッセージ設計にしたことで、最終的にチョコ名大喜利にも発展して。
X(Twitter)ユーザーが遊べるような自由度をもたせたのが良かったですね。
レアチョコとチョコクエストで、遊びたくなるゲーム要素をプラス
中村:チョコクエストとレアチョコ集めもユーザーさんを喜ばせる機能として楽しんでもらえました。
チョコクエストは、「10人にチョコをおくる」などのミッションをクリアすると、”キットカット ショコラトリー”の店舗で本物のチョコを受け取れる引換券をもらえる機能、レアチョコは”キットカット”を使った珍しい架空のチョコで、チョコルーレットで当てたり交換したりすることで、全種類をコンプリートできる機能です。
やはり企業のキャンペーンというだけで引いてしまう人って一定数いるのですが、そういった人たちにも楽しんでもらえるように、こういったゲーム要素を足しました。
結果として、チョコクエストでゲットした引換券でもらったチョコをX(Twitter)で報告してくれる人も多く、リアルとWebを掛け合わせたすごく有効なキャンペーンになりました。やっていることはサンプリングなのですが、ユーザーさんに取りに来てもらうというのは新しいし、コストも少なく済むんです。引換券をもらったユーザーは”キットカット ショコラトリー”の店舗リスト画面もよく見ていて、認知効果につながっています。
レアチョコも協力しないとなかなかコンプリートできないということで、ユーザー同士のコミュニケーションが生まれ、キャンペーンをさらに盛り上げる要素になりました。
X(Twitter)ど真ん中世代から火をつける
中村:最後のポイントは、バズのきっかけを人気YouTuberの動画にしたことです。
このキャンペーンは商品の引換券をもらえるものなので、一歩間違うと30代~40代くらいの懸賞好きユーザーにヒットしてしまうんですが、それは避けたかった。下の世代で火がついて上に広がることはあっても、上の世代でヒットしたものが下の世代で広がることはほぼ無いからです。10代くらいの子たちの中には「大人がやっていることはかっこ悪い」みたいな雰囲気がありますから。
そこで人気YouTuberに動画を作ってもらって拡散しました。これが380万回再生されて、最初のバズが始まりました。
このプロモーションをキャンペーンのローンチから間もなくにもってきたことで、狙い通り10代から20代前半までの若い層から火をつけられました。
大久保:ありがとうございます。キャンペーンの設計からプロモーションの方法まで、かなり細かい狙いをもって作り込まれていたんですね。それが驚異的な結果に繋がった。
中村:もちろん、元々気持ちを贈りあえるツールとして親しまれている”キットカット”だからこそ、ここまで拡散されたと思いますし、色々と狙いは当たったんですが、正直ここまでのヒットは予想外でもあって……(笑)。
なぜここまでヒットしたの?【ぶっちゃけ予想を超えていたポイント】
大久保:狙い通りだった部分もそうでなかった部分もあったということですね?具体的に「予想を超えていたな」というポイントはどのようなところですか?
中村:これも色々あるのですが、3つのポイントに絞って解説しますね。
絵師クラスタにクリティカルヒット!2次創作祭りに
中村:想像以上に盛り上がったのがイラストの2次創作です。もちろんキャラをいじってくれることやイラストを書いてくれる人がいることは予想していましたが、数えるほどかなと思っていたんです。
でもフタを開けてみれば、相当数のバレンタインポスト関連のイラストが生まれました。ポストキャラをアレンジして絵にしてくれるのはもちろん、アニメキャラにまつわる妄想をチョコ名につけて絵師(※)さんに贈り、それを絵師さんがイラスト化するなど、かなり濃厚なコミュニケーションが発生していました。
※絵師とは
もとは絵を描く人という意味だが明確な定義はない。X(Twitter)などではマンガやアニメ、ゲームに関するイラストを描く人を「絵師」と呼ぶ傾向がある。
▼キャラ画の2次創作
▼ユーザーが送ったチョコ名から、絵師さんが作成したイラスト
人気のある絵師さんや毎日イラストをアップしている人は常にネタを探している状態なので、バズがキャズムを超えるとこういったパロディ画が一気に増えるようです。絵師さんやそこをフォローしているユーザーを巻き込むというのが、X(Twitter)でバズるためのものすごく重要な要素になってきているのではないかと思います。
X(Twitter)はリアルな人間関係と違って、好きなもので繋がっているコミュニティになっているんですね。同じ趣味の人同士がフォロー/フォロワーになっているから、大喜利だったりイラストだったりを何回もシェアできる。わかってくれるという安心感があるんでしょう。だから1人で複数回シェアするような異例の事態が自然と起こったんでしょうね。
X(Twitter)ユーザーのコミュニケーションハードルの低さ
中村:前述の、絵師さんとファンのコミュニケーションもそうなのですが、知らない人同士のコミュニケーションへの心理的ハードルがものすごく低いというのも想像以上でしたね。じつはみんなコミュニケーションが取りたい、そのきっかけが欲しいんだなと。
僕たちの世代ってまだリアルな友だち、知り合いの延長でSNSがある感覚が強いと思うのですが、今の若い子たちは全然違う。ネット上のコミュニケーションに抵抗がない分、「みんなにおくる」機能なども抵抗なく使えるんだと思います。
上の世代になると、「送る相手が決まってないのに、なんでシェアしなきゃいけないの?」となる。そこを感覚的に理解して受け入れられる素地ができているんです。
チョコクエストやレアチョコ集めでも、フォロー/フォロワーの関係以外の人とも協力していたりして、純粋に「すごいな」と。友だちの範囲内で完結させないんですよね。
今回はバレンタインがうまい口実というかきっかけになって、多くのコミュニケーションが生まれました。企業のキャンペーンであっても、それがいいきっかけになっていれば、勝手にユーザー同士がコミュニケーションをとって楽しんでくれるんだっていうのが新しい感覚ですね。
複雑な機能を使いこなすリテラシーの高さ
中村:最後が、本当にリテラシーが高いな、ということです。このキャンペーンは「何ができるか」を理解するのが少し難しいんですよね。機能や要素が結構多いので。目的を達成するためにそうせざる得なくてそうしているんですけど、その難しさを軽々と超えてくるユーザーが多いことに驚きました。
スマホゲームなどで「チュートリアルを見て、やりながら覚える」というのに慣れているからなのかなと思うのですが、機能ややり方をすぐに理解して使いこなしてくれる。このキャンペーンも、まずはチョコをおねだりするという簡単な操作から入れるようにしたのが良かった。そこからやりながら覚えてくれているんだと思います。
あと、もしわからなくてもX(Twitter)で助けを求めるし、そうすると誰かが助けるんです。こういうのって上の世代だと意外と難しくて、僕のまわりでも「この次どうすればいいの?」となって止まってしまう人が多い。このつまずきを、若い世代は超えてきますね。
というように、色々な要素が「予想以上」だったのが正直なところです。このキャンペーンを通じて、10代くらいの若い世代にバズを起こす方法は理解できてきたかなと思います。X(Twitter)の爆発力は本当にすごいんだと実感しました。
大久保:ある程度予想はしていたけれど、そこをさらに超えてきたという感じだったんですね。たしかに若い世代は、大人には想像もつかないようなSNSの使い方をしていますよね。以前MixChannelという若者向けサービスの取材をしたときも「2次創作は若年層の新しい遊び」だと言っていたのを思い出しました。
中村:そうですね。今回はそれが全体的に良い影響を与えてくれて結果に繋がりました。
大久保:興味深い事例の解説、ありがとうございました!
この記事を書いた人:ソーシャルメディアラボ編集部