検索エンジンからコンバージョンしない? 知られざる中国のSNS事情とは
2017/05/08
Facebook・X(Twitter)・Instagramなどグローバルでユーザー数を伸ばすSNSがある一方、中国では独自なSNSが成長を遂げています。中国の代表的なSNSである微博(Weibo)や微信(WeChat)など、一度は耳にしたことがあると思いますが、それらは一体どんな違いがあるのか?どんな使われ方をしているのか?まで知っている方は少ないはずです。
今回はそんな疑問を解消すべく、微博(Weibo)の日本地域のオフィシャルエージェンシーであるFindJapan株式会社、代表取締役社長 西山氏にお話しをお伺いしてきました。
Interview / ソーシャルメディアラボ編集長 大久保亮佑
- ■目次
- ・プロフィール
- ・中国向けのマーケティングを始めたきっかけ
- ・認知活動に多くの予算を割く中国のマーケティング
- ・メディアの微博(Weibo)、インフラの微信(WeChat)
- ・口コミ・コミュニティを大事にする背景とは
- ・検索エンジンからコンバージョンしない2つの理由
1. プロフィール
西山 高志氏:FindJapan株式会社 代表取締役社長
2. 中国向けのマーケティングを始めたきっかけ
大久保:そもそもどういった経緯で中国向けのマーケティング支援を始められたんですか?
西山氏(以下敬称略):会社説明の前に私の紹介を少しさせていただきます。私はFindJapanの2代目社長です。その前はグローバルWiFi事業などを展開している、株式会社ビジョンのマーケティングの担当役員でした。じつはその時に買収した会社がFindJapanだったのです。
大久保:そんな経緯があったんですね。ちなみになぜ会社を移られたんでしょうか?
西山:もともとデジタルマーケティングを10年以上もやってきました。その当時マーケターは北米に勉強しに行くんですよ。そこで最新のGoogleの事例とか学ぶわけです。
周りにもすごい勉強しているメンバーがいて、今では社長になっている方やマーケティングイベントに登壇している方も多くいました。ですが、彼らも中国のことは全く分からなかったんです。
Googleを中心とするデジタルマーケティングは日本にプレイヤーが多くいたので、私は2012年に決断して中国向けプロモーションを事業としているこの会社をやろうと思ったんです。
大久保:2012年というとまだ爆買いなども起こる前ですよね
西山:そうですね。むしろ就任した瞬間に反日デモが起こりましたからね。日本車がひっくり返されちゃったりして。
弊社は“FindJapan”というメディアを当時から運営していたので、反日状態でどれだけ日本の情報が見られているのか数字だけ冷静に見ていました。そうすると面白いことに全然アクセスが減らないんですよ。
多くの日本系メディアが配信をやめる中で、むしろPVも会員数も増えていったんです。これはおもしろいなと思いました。中国に消費者はいるなと確信しましたね。
3. 認知活動に多くの予算を割く中国のマーケティング
大久保:中国のマーケティングで日本との違いを感じた点はありますか?
西山:中国はそもそもマーケティングという文化が日本ほどないです。どちらかと言うと“お金を使って大声出そうぜ”という感じです。またソーシャルメディアが出る前からもともと口コミが重要な国なので、口コミの前段階の認知活動にものすごくお金を使っているのが特徴です。
大久保:とにかくマスに予算を割くんですね。マスというのはテレビなどでしょうか?
西山:テレビはだいぶ減っていますね。微博(Weibo)はマス的な要素が強いです。中国のテレビチャンネルって100以上にあるんですよ。省ごとに番組も全部違うし。
また若い子たちはスマートフォンに支配されていますしね。日本の20・30代以上の方は携帯(ガラケー)を持っていた時代があると思います。
それが中国の場合はいきなりスマートフォンからスタートした方も多いですね。そうすると想像していなかった使い方や普及率になるんですよ。沿岸部だと若者たちのスマートフォンの普及率は98%以上ですよ。
大久保:ちなみにスマートフォンやSNSが出る前は、どのメディアが認知活動の主流だったのでしょうか?
西山:ポータルサイトですね。微博(Weibo)の運営会社は新浪(シナ)という会社で、中国で有名なニュースポータルサイトも運営しています。こういうポータルサイトが認知活動の予算を押さえていたんです。
そもそも微博(Weibo)っていうのは一般名詞で使われていました。ミニブログ(「微」=「ミニ」、「博」=「ブログ」)という意味ですね。新浪(シナ)が作ったミニブログが新浪微博(シナWeibo)で。他にも多くの微博(Weibo)が立ち上がったんです。
大久保:なるほど。そういうことだったんですね。
西山:どの微博(Weibo)が主流になるのかという微博(Weibo)戦争というのが2012年に起きて、戦いに勝ち残ったのが新浪微博(シナWeibo)だったんですね。
それで、新浪微博(シナWeibo)が2013年に上場して“微博(Weibo)”という一般名詞が企業名になったんです。
大久保:微博(Weibo)はそういった背景で広まっていったんですね。
4. メディアの微博(Weibo)、インフラの微信(WeChat)
大久保:一方で微信(WeChat)はどのように使われているのでしょうか?
西山:先程言ったように、微博(Weibo)はどちらかと言うとマスメディアに近く、微信(WeChat)はインフラですね。中国では欠かせません。微信(WeChat)が定着したのは2013年で、そこから中国人のライフスタイルが大きく変わりました。
大久保:インフラというと具体的にどのようなものなのでしょうか?
西山:電話、チャット、銀行の支払い、タクシーを呼ぶ……。これら全てがしっかりとしたセキュリティの中で動いてくれます。ですので微博(Weibo)と違ってメディアという思想は弱いですね。微信(WeChat)を運営している騰訊(テンセント)が目指しているのは、公共インフラという考えです。
騰訊(テンセント)も、以前は 騰訊微博(テンセントWeibo)を作っていて、そのベースになったのがQQです。QQはチャットツールです。つまり微信(WeChat)のバックボーンは“チャット”ということになります。
一方、口コミ・コミュニティ観点を踏襲してメディア化したものが微博(Weibo)です。新浪(シナ)がなぜ強かったのかと言うと、先程言ったようにポータルサイト運営していたので、コンテンツを多く持っていた点になります。微博(Weibo)はメディアの遺伝子が強烈に入っているんです。
大久保:微博(Weibo)と微信(WeChat)でバックボーンが全く異なるんですね。
西山:暇つぶしで見るのは微博(Weibo)、タイムラインを見ていて面白いですね。エンゲージメントが高いもの・面白いものをタイムラインに表示させようとする思想はFacebookのアルゴリズムにも似ていますね。
5. 口コミ・コミュニティを大事にする背景とは
大久保:中国では“口コミ”がすごく重要視されているんですよね。
西山:弊社に中国人スタッフが多くいるんですが、彼らは何か購入する時は、必ずコミュニティに確認取るんですよ。
大久保:「圏子(チェンツ)」でしたっけ?中国の仲間意識というか。
西山:そうそう、仲間意識。私なり考えだと“自己防衛本能”ですね。中国人って周りにけっこう敵が多いんですよ。なので仲間でチームを作り、騙されないように守っているんですね。偽物の商品も多く出回っているので、仲間内で確認を取るという感じです。
大久保:その“仲間”はどういった繋がりなんでしょうか?
西山:家族や友達など一般的に考えられるものですね。LINEでもグループチャットをやると思いますが、中国の人たちは微信(WeChat)で同時に20個くらいのグループチャットのやり取りをしている感じです。私も多くのグループに入りましたが、あまりにもチャットが来るのでサイレントにしました。(笑)
大久保:グループチャットがそんなに使われているんですね?
西山:そうですね。なぜ微博(Weibo)・微信(WeChat)が定着したのかなと私なりに分析すると、もともとあった中国の生き方・文化がSNS内で踏襲されているからなんですよ。
大久保:もともとオフラインであったコミュニティというものが、SNSに移行しているという感じなんですね。
6. 検索エンジンからコンバージョンしない2つの理由
大久保:これから中国向けにプロモーションしようと考えている企業に、伝えておくべきことはありますか?
西山:Google中心の考え方だと見誤ってしまうのが、検索エンジンマーケティングを重視しすぎる事です。中国でも百度(Baidu)という検索エンジンがありますが、検索エンジン経由でのECのコンバージョン率がとても低いです。なぜコンバージョンしないかは2つの理由からです。
- 検索エンジンではなく自分のコミュニティに聞くから
- マーケットプレイス(taobao.com)内で検索するから
A:検索エンジンではなく自分のコミュニティに聞くから
西山:本当に買うものが決まっていて、「あれはどこで買えるんたっけ……。」という時は検索経由でコンバージョンするんですが、新しいものを発見した時には購入まで至りません。
なぜなら、先程も言ったように一旦自分のコミュニティに聞くからです。この点を逆に考えると、ソーシャルコマースという点ではおそらく世界一だと思います。これは中国のもともとの購買行動に起因していますね。
B:マーケットプレイス内で検索するから
西山:中国のECというのはもともとCtoCで、その中でも圧倒的なシェアなのがアリババグループ運営の淘宝(タオバオ)です。偽物が多いから淘宝(タオバオ)の信用が高いお店じゃないと買いたくないという感じです。それでも偽物があるのでコミュニティが必要になるわけですが……。
中国人の感覚だと、淘宝(タオバオ)にないものは世界にないと思っているぐらいです。(笑) そうすると百度(バイドゥ)で検索するよりも淘宝(タオバオ)内で検索しちゃった方が早いとなるわけです。
大久保:検索からのコンバージョンになりにくい分、ソーシャルコマースが盛んという点も面白いですね。本日はありがとうございました!
次回は中国のソーシャルコマース市場やKOL(Key Opinion Leader)の存在などをお伺いできればと思います。