「弱いつながり」が価値を生む。ビジネスSNSとして急成長するEightの挑戦
2017/09/05
150万人以上が使う名刺アプリとして知られる「Eight」。名刺管理機能に加えビジネスネットワーキング機能をもち、名刺をビジネスへ繋げるサービスとしてさまざまなビジネスパーソンに利用されています。Eightは今年6月に企業がEightのフィード上で情報発信ができるようになる「企業ページ」をリリース。
これまで名刺を通して個と個の繋がりを作り上げてきた上に、企業という新たな文脈を入れ、ビジネスネットワークをより活性化するよう進化しています。今回は、Eightをリリース時から支えるチーフプロデューサーの千住洋氏に、Eightの歴史と今回の企業ページの目指すところ、そしてEightの見据える未来について伺いました。
Interview / ソーシャルメディアラボ編集長 大久保亮佑
- ■目次
- プロフィール
- Eight成長の軌跡
- ビジネスに特化したプラットフォームの価値
- 名刺の価値は「弱いつながり」
- 企業ページ機能が担う、大きなコンテクスト
- 企業向けページにあるビジネスチャンス
- 名刺情報から見える、最適な転職候補者
- 今後、Eightが見据えるもの
1. プロフィール
千住洋 氏:Sansan株式会社 Eight事業部チーフプロデューサー
2. Eight成長の軌跡
大久保:Eightはどのような気づきから生まれ、どのように成長してきたのでしょうか?
千住氏(以下、敬称略): Eightは2010年にプロジェクトをスタートし2012年にリリースしました。当初の想いは、「ビジネスシーンにおける人と人との出会いの証である『名刺』をもっと使いやすくしたい」というもの。そして、現実の名刺交換をオンラインで再構築できれば、その上にコミュニケーションが生じ新たなビジネスの可能性が生まれるのではないか。そのような考えから、Eightは生まれました。
企画が始まった2010年当初はまだFacebook が流行り始めたくらいの状況。いきなり「名刺を軸にオンラインでコミュニケーションをしましょう」と言ってもユーザーに意図が伝わりにくいと考え、リリース時は世の中に現存する紙の名刺を取り込むための、シンプルな名刺管理アプリとしてスタートしました。
大久保:そうですよね、私もEightは名刺管理アプリだと認識していました。
千住:ですが、当時からユーザー同士のつながりという概念はアプリ内に持たせていました。たとえば相手がプロフィール名刺を更新したら、つながっている相手には届くといったことです。名刺は人と人との「ビジネスの出会いの証」ですから、そのつながりを保つ最小の機能からスタートし、徐々に進化を続けていきました。
そこから2015年にはユーザー数100万人突破。このころから、ユーザーがEightに登録すれば、すでにEightのユーザーとなっていた過去の名刺交換相手、数十人とつながるという状況が起こりました。Eightでのつながりが価値を持つようになった頃を機に、本来やりたかった単なる名刺管理にとどまらず、名刺を軸にしたビジネスネットワークを構築するプラットフォームへの移行へと動き始めました。
3. ビジネスに特化したプラットフォームの価値
大久保:本来の想いとしてあったビジネスネットワーク機能を搭載するにあたって、具体的にはどのような機能が実装されていったのでしょうか?
千住:最初に搭載した機能は、知り合いを検索して追加する機能です。それまでは名刺をアプリ上で撮影する、もしくはスキャンするだけでしか、Eight上でのつながりを追加できませんでしたが、検索機能を追加しよりつながりやすい環境を整備しました。
検索でつながりやすくした上で、2016年よりフィードやグループメッセージといったつながった後に活用する機能も実装。なかでもビジネスの話題を自由に投稿できるフィード機能は特に好評でした。意外にもビジネスについてストレートに投稿できる場って少ないんです。たとえばFacebookでは、ビジネスとプライベートが混同しがちで、仕事の話を真面目に投稿すると、大学や地元の友達から 「何投稿しちゃってるの?」 となった経験、ありますよね(笑)
最近ではビジネス上の課題をEightのフィードに投稿するユーザーもいます。すると一気に4~5件の提案が来るなんてこともある。ある種のビジネスコンペのようなことがフィード上で起こっているわけです。
また営業ツールとしても活用されている方もいらっしゃいました。ライターさんが「私のスキルとして、こういう分野でのライティングが得意です。お困りの企業さんありませんか?」とポストしたところ、過去そのライターさんと名刺交換した企業から、一度に数社から問い合わせがあったそうです。
このように、ビジネスシーンにおけるお互いのニーズをマッチングする場として、Eightのフィードは役立っているのです。
4. 名刺の価値は「弱いつながり」
大久保:フィードの話で言うと、フィードのアルゴリズムは各プラットフォームの思想が一番反映される部分の一つだと思うのですが、その点Eightはどのように考えていらっしゃいますか?
千住:ネットワーク理論の研究でよく言われているのですが、イノベーションを起こす際には、ちょっと遠く見える情報の方が面白かったり、役に立ったりすることがあります。ネットワーク理論では、これを「強いつながり」と「弱いつながり」という言葉で表現しています。早稲田大学ビジネススクール准教授の入山章栄先生が盛んに研究されている分野で、「強いつながり」とは接触回数が多く、情報交換の頻度が多いクラスタとのつながり。
例としてあげるのであれば、「親友」「同僚」「親類」などですね。逆に、「弱いつながり」は、一度つながりはしたものの、頻繁に情報交換もせず、専門分野も異なる人、心理的な距離感も遠い人とのつながり。たとえばビジネス上で名刺交換したものの、その後あまり話せていない人などがあげられます。
イノベーションを起こすためには、この「弱いつながり」の方が有益というのが最新の研究結果です。BtoBマーケティング担当者にとっては当たり前の情報が、BtoCマーケティングの担当者にとっては革新的で、学びになるかもしれないですよね。近しい情報は常に触れているからこそ、少し遠い「弱いつながり」からの情報の方が気づきや学びが生まれやすかったりするんです。
上述の入山先生の知見やネットワーク理論研究などをを参考にさせていただきつつ、提供していく情報の最適化は目指していきたいと考えています。
これまでのSNSが繋げるような「強いつながり」だけではイノベーションはおこりません。知っているけど頻繁に会うわけじゃないといった「弱いつながり」の人とより繋がっていくことで、イノベーションが起き、ビジネスマンとしての強さが生まれていく。Eightはこの「弱いつながり」の価値を体現する役割になっていければと考えています。
5. 企業ページ機能が担う、大きなコンテクスト
大久保:個対個の弱いつながりを体現してきたEightですが、今年6月には企業ページ機能が実装されました。個人同士のつながりとはまた違う文脈なのではないかと思ったのですが、企業ページ機能の導入における背景を教えていただけますか?
千住:これまでEightは名刺という個人に紐付いたものを土台にネットワークを構築してきました。しかしビジネスは、企業や業界と言ったより大きなコンテクストで動いている。それがこれまでのEightでは可視化できていなかったという課題がありました。たとえばEightでつながっている人の会社の情報がその人に役立つことだってある。
個人同士のつながりでは一面的にしか見えない情報を多面的に見せていく。そのためには企業とつながることができる機能は必要だと考え、実装することとなりました。
大久保:すでに「企業ページ」を開設している企業からはどのような声が上がっていますか?
千住:企業ページは、興味のあるユーザーがその企業をフォローすることでつながることができます。企業からは、どんな人が会社に興味を持っているかを、細かく知れるという点で良い評価をいただいています。
またEight内には150万人以上ものユーザーがいますから、自分たちからリーチしようとしても出会わない人と出会うこともできる。企業発の情報を欲しがっているユーザーさんは意外と多くて、企業アカウントがあれば自然とフォロワーも増え、投稿にも反応や意見が集まります。
大久保:先ほどの個人の話でもありましたけど、ビジネスの事をストレートに発信出来るSNSってないですよね。その点は企業の方からも喜ばれそうですね。
千住:そうですね、他のSNSにはないそういった点も喜ばれています。現状の投稿内容としては、主に採用や自社ブランディングのために活用されていらっしゃる企業多いですね。たとえば「こういう人たち募集しています」といった投稿や、イベントの告知。他にも最近の活動や実績の紹介などで活用している企業もいらっしゃいます。
6. 企業向けページにあるビジネスチャンス
大久保:企業ページとともに搭載されたEight上の広告機能についても教えてください。
千住: Eightのようなビジネスに関する情報のみが流れるプラットフォームはB2B商品の広告との相性が非常にいいんです。Eightにはさきほどお話ししたとおり、名刺に掲載されている情報と、それに紐付く企業情報の両方が入っている。従業員規模、業種、売上高といった企業の属性情報、役職や部署名、勤務地まで。そのユーザー情報から細かくセグメンテーションした上で、広告を出せる。
なので、Eight Adsは非常にコンバージョンレートが高いのです。それは適切なユーザーに適切な広告を出せているのと、フィードがビジネス文脈だから。広告と聞くと、一般的にはノイズと思われがちですが、最適な情報が最適な人に届くのであれば、それはソリューションになりうる。私たちはそう考えています。
大久保:なるほど、現状は誰でも広告を出せるのでしょうか?
千住:現状は、企業様から問い合わせがあった際に、こちらで細かく投稿内容を精査した上で、広告掲載の可否を判断しています。というのも、ビジネスに限定した内容と言えども、大量の無関係な広告はユーザーにとって単なるノイズになってしまうからです。広告をソリューションとして届けるために、大きく、2つのレギュレーションを設定しています。1つはビジネスに役立つか否か。もう1つはクリエイティブです。前者はわかりやすいのですが、クリエイティブや結構難しいポイントです。
みなさんどうしてもアイキャッチで、クリックを誘導しようとするクリエイティブを作りがちです。それはこれまで関係ない文脈の上に乗ったときでもクリックしてもらう必要があったからで、Eightであればそんな必要はない。もともとビジネスの文脈に乗っているわけですから、正当なコミュニケーションでまっすぐに自分たちの良さを伝えれば、ちゃんと反応してもらえる。そこを理解した上でのクリエイティブが必要になるのです。
7. 名刺情報から見える、最適な転職候補者
大久保:あとダイレクトリクルーティング・サービスのEight Talent Solutionも発表されましたよね。人材面は確かに相性が良さそうだなと持ったのですが、やはり名刺データを持つゆえの強みがあるのでしょうか?
千住:おっしゃるとおり、Eightのユーザーは全員プロフィールの名刺を登録していますから、データとして勤務先の情報とユーザーが紐付いています。そして、その情報は随時更新されていく。現状平均で1日500件もの情報が更新されています。この履歴を統計的に解析すると、大きなトレンドとして業界ごとの人材の流れや、業界の間での動きといった市場の動向がつかめてくるのです。
大久保:市場動向のような全体感をつかみつつ、ソーシングへ活かすと?
千住:その通りです。最適な転職候補者をリコメンドするのにもこういった情報は役立っています。一般的に人事を担当される方はさまざまなソーシングサービスを使い、自分たちの手で検索をしていますが、だいたい皆さん同じ条件で検索しているんです。勤めている会社や出身大学、出身学部など、自分たちなりの条件でやっているつもりですが、どの企業もほぼ一緒。なので同じ人にたどり着いてしまい、過度な競争が発生していました。
Eightの場合は、上述した精度の高いリコメンデーション機能と、スカウトツールにも厳しい制限を入れ、同時に何社もからアプローチが来ないように調整。企業がコミュニケーションできる環境を整え、人事の方が集中して、話を進めやすいようにしています。
8. 今後、Eightが見据えるもの
大久保:本格的にSNS機能に力を入れ始めてから2年。企業ページ含めさまざまな機能が実装されてきましたが、今後の展望をお聞かせいただけますでしょうか。
千住:Eightを提供していくなかで改めて、当初の想いでもあったいままで紙ベースで管理されていたビジネスネットワークをオンラインに持ってくる「ビジネスSNS」は確実に必要とされている確信を持っています。
いまやSNSやコミュニケーションツールは個別最適化される流れにあります。X(Twitter)とFacebook、Instagramなどそれぞれでユーザーが求めているコミュニケーションが異なる。そして現状、ビジネスのコミュニケーションを行う場は存在しない。そこを担うのが名刺を基軸にもつEightだろうと考えています。
当社は名刺という基軸をもつからこそ、人と人のビジネス上での「弱いつながり」が生み出す価値にも気づくことができた。この弱いつながりを最大化するビジネスコミュニケーションの場を作っていくことに今後も力を入れていきたいですね。
2015年に舵をきってからまだ2年。今年の9月には海外版をローンチし、アジア展開も見据えています。日本のユーザーに満足して使っていただけるビジネスプラットフォームになるべく、ひいては、アジアNo.1のビジネスプラットフォームになるべく、これからさらにEightは成長していきます。今後も是非ご期待ください。