ソーシャルビッグデータを用いて、外国人の生の声を分析・調査。インバウンドを加速させるソリッドインテリジェンス

2017/10/03

人口減少に伴い縮小する国内マーケットではなく、インバウンド・アウトバウンドの市場を狙う企業が増える近年。日本と異なるカルチャーをもつ海外のユーザーの動向やニーズを知ることはどの企業にとっても欠かせません。

この海外ユーザーの動向や市場の調査をソーシャルビッグデータを用いて行うのが、ソリッドインテリジェンス株式会社です。2020年を前に特にインバウンド領域において需要が急拡大するこの分野で、同社はどのように海外のニーズをつかんでいるのか。その裏側を代表取締役社長の丸野敬氏に伺いました。

Interview / ソーシャルメディアラボ編集長 大久保亮佑

    ■目次

  1. プロフィール
  2. ソーシャルビッグデータを調査して分かること
  3. インバウンド領域でのソーシャルビックデータ活用
  4. X(Twitter)、Instagram…異なるソーシャルリスニングのポイント
  5. ダークソーシャルの台頭はソーシャルリスニングを変えるか
  6. 日本はまだまだ観光客が増える余地がある

1. プロフィール

ソリッドインテリジェンス株式会社 代表取締役社長 丸野敬 氏

2. ソーシャルビッグデータを調査して分かること

大久保:貴社の事業を簡単に紹介いただけますでしょうか?

丸野氏(以下、敬称略):当社は海外情報を中心としたソーシャルビッグデータを用いて、解析や市場調査を行っています。インバウンド・アウトバウンド問わず、クライアントの目的に合わせて都度適切なソーシャルを選択しリサーチを実施。目的に沿った情報を収集・分析しています。

たとえばインバウンドの場合、訪日外国人観光客の書き込みから、観光地に関する評価や、受けたカルチャーギャップ、日本ならではの体験と感じた要素、買ったもの、嬉しかったことなどを調査。日本語の情報だけではわからない生の声をあぶり出します。

アウトバウンドの場合は、商品名やブランド名、サービス名などをキーワードに現地で利用されているSNSやブログ、掲示板などから評判を調査したり、海外進出前のクライアントであれば、マーケット自体の調査を行ったりしています。

たとえばタイでチョコレートを販売したいクライアントであれば、タイ国内でのチョコレートに関する書き込みを収集。デスクリサーチを組み合わせ、タイで販売されているチョコレートをリストアップし、どういったチョコレートのどういったところが人気を得ているのか。人気を得た商品はどのように変化してきたかなどを時系列で調査。収集した情報を整理し、商品開発に活かせる情報としてレポーティングしています。

3. インバウンド領域でのソーシャルビックデータ活用

大久保:最近はやはりインバウンド系の案件が多いのでしょうか?

丸野:おっしゃるとおり、案件の半数以上はインバウンドのものです。外国人がどうソーシャルを使っているかがわからないというお話をいただくことや、海外におけるリアルな声をどう集めればいいかわからないというクライアントも多いです。

たとえば外国人が最近増えてきている温泉地があるとします。データ的にも中国人宿泊者が実際に増えている。けれど、ソーシャルをどれだけ探しても3ヶ月間で投稿が3件しかない。一体何が起こっているのかといった具合です。

この場合は、観光客がソーシャルにアップしようと思うものが現地に無かったりする可能性があります。ここで外国人に人気の観光地や観光資源と比較してみる。すると、こういう部分に関しては、こういう書き込みがある。ポジティブに書かれているのはこういう要素。逆にネガティブな反応があったのはこれといった情報が明らかになる。

そこから逆算して、なぜこの温泉地は投稿がないのかを探っていきます。日本の地方が抱えている課題は割と共通していたりするので、他の地域の成功事例や失敗事例を上手く応用できる場合も少なくありません。

あとは、店舗に外国人を送客するために分析をしてほしいと依頼するクライアントもいます。効果的なマーケティングをするために、外国人の買いたいものや体験したいものを分析して、そこから得た知見を集客時のプロモーションに活用するなどです。

一口に外国人といっても国によって宗教・文化がことなるため、そのようなソーシャルリスニングを踏まえたマーケティングは有効だと思います。

4. X(Twitter)、Instagram…異なるソーシャルリスニングのポイント

大久保:ソーシャルビッグデータを分析されるとのことですが、具体的にはどのようにリサーチされているのでしょうか?

丸野:クライアントによって調査方法は様々です。複数のメディアを横断的に見て、媒体特性が出ないように情報を集めることもあれば、メディアを複数いれていくと情報にぶれが生じる場合もあります。そこは、各メディアの特性とクライアントのニーズによって使い分けています。

わかりやすい例で言うと、X(Twitter)のテキスト分析は瞬間風速的な数値を取るのに活用できます。X(Twitter)は特に日本とアメリカで多用されており、トレンドの波を見たり、ワードごとの盛り上がりを見る上で、効果的なソーシャルリスニングツールです。

大久保:X(Twitter)のようにテキストの分析はわかりやすそうですね。逆に画像系のSNS、たとえばInstagramをリサーチされることはあるのでしょうか?

丸野:Instagramは厳選されたコンテンツが挙げられる場として注目すべきSNSですね。ハッシュタグ機能や、チェックインもできるので、リサーチするにもとても便利です。たとえばインバウンドでのリサーチでは、旅行動線の中で、ポジティブな印象を持った場所が厳選されてアップされるので誘客戦略の参考にしたり、視覚的にどのようなものにポジティブな印象をもったかがとてもわかりやすい。

またInstagramの場合、前後の投稿からも学びがあります。その人のウォールをみていくと、ライフスタイルが見えてくる。「エンゲージが高い人はこういったライフスタイルを送っている」というのがわかるので、旅中だけでなく前後の投稿からもたくさんの情報があぶり出されてきます。

InstagramにしろX(Twitter)にしろ、それぞれのSNS特性やクライアントが求める情報に合わせ、情報を集めて調査を行っています。関係する投稿だけを見るのでは無く、文脈であったり、ユーザー像であったり投稿から見えてくるものはたくさんある。それらをうまくすくい上げるのが我々の仕事です。

5. ダークソーシャルの台頭はソーシャルリスニングを変えるか

大久保:SNSの分析と近しい文脈で、最近「ダークソーシャル」が注目を集めています。チャットやメッセンジャーなど、クローズドな中でやりとりされる情報があり、ソーシャルのようにオープンな箇所で見える情報は一部にすぎないのではないか。という話ですが、「ダークソーシャル」が台頭してくると、ソーシャルリスニングの役割は変化していくのでしょうか?

丸野:本質的には変わらないと思います。客観的情報を参考にしたいというニーズも、発信したい欲求も普遍的です。発信される母数自体は変化していくとしても、客観的情報は常に発信され続けられると思いますね。

極端な話をすれば、レストランを検索するときに食べログを使わなくなるかという問いに近いと思います。食べログに書いてある情報がLINEやMessengerに代替されるかっていうと、そうはならない。口コミやレーティングには普遍的なニーズがあります。

クローズドな環境下で発信される情報が増えて、オープンな場で発信される情報が多少減ることはあっても、その変化がソーシャルリスニングの価値を変えてしまうほどの影響にならないでしょう。

クローズドなSNSの役割とオープンに情報をやりとりされている場の役割が本質的に異なります。それぞれで分析できる情報も出てくるとおもいますし、それぞれが異なる価値を生んでくれると思いますね。

6. 日本はまだまだ観光客が増える余地がある

大久保:インバウンド系の需要が伸びる中、今後事業としてはどこを特に注力していきたいとお考えでしょうか。

丸野:領域的には、やはり弊社としてもインバウンド領域は欠かせないでしょう。ソーシャルリスニングをしていると海外旅行って基本的にはポジティブな投稿が多いんですが、日本は特にポジティブなものが多いんです。

日本に来て本当に驚いたという、カルチャーギャップに関する書き込みが多いんですが、概ねポジティブに受け止めてもらえている。これまで外国人観光客を誘致するために国が努力して、規制を緩和したりPRしたりしてきた効果が今まさに現れている。

さらに来た人は満足して、それをソーシャルメディアにあげることで、投稿を見た人が行ってみたいと思ってくれるといった良い循環がおこっています。まだまだ、観光客は増える余地がある。これは今後さらに拡大する大きな市場になっていくと期待しています。