ユーザーが「結婚」したくなる広告とは。広告をライフソリューションとするLINEの戦略
2018/03/28
MAU7300万人、そのうちのDAU率は驚きの84%、名実ともに日本国内最大のプラットフォームとして成長し続けているLINE。そんな同社は2月7日に開催した法人事業者向けカンファレンス『LINE Biz-Solutions Day 2018 Spring』(https://linebiz.jp/seminar-report/2046/)を行いました。
さまざまなテーマのセッションがあったなかで、ラボ編集部はLINE株式会社執行役員 広告事業戦略担当の葉村真樹氏が発表していたLINE広告事業の未来に特に注目しました。そこで取り上げられていたキーワードは「CHANGE」です。
2018年、そして今後のデジタル広告はどう「CHANGE」していくのでしょうか。前回の記事(https://gaiax-socialmedialab.jp/post-56652/)に続き、葉村氏にカンファレンスの内容についてより詳しくお話をお伺いしました。
Interview / ソーシャルメディアラボ副編集長 小東真人
Text / ソーシャルメディアラボ編集部 大木一真
- ■目次
- プロフィール
- ユーザー視点のビジネスと広告
- 今までの広告の課題「そもそも広告はうざいもの」
- ユーザーの役に立つ、ライフソリューションとしての広告
- 今後の展望
1.プロフィール
葉村真樹 氏:LINE株式会社 執行役員 広告事業戦略担当
Google日本法人にて経営企画室兼営業戦略企画部統括部長、ソフトバンクにてiPhone事業推進室長、X(Twitter)日本法人にて広告事業統括およびブランド戦略部門日本及び東アジア統括を歴任。AKQA日本法人代表、PwCコンサルティング エクスペリエンスセンター長等を経て、現職。博報堂在籍時には、ストラテジックプランナーとしてNYフェスティバルAME賞、MAA The GLOBES Awards 金賞、マーケティング朝日賞大賞などを受賞。
2. ユーザー視点のビジネスと広告
小東:そもそもご自身のキャリアで最初にデジタル広告業界に携わったのはいつだったのでしょうか。
葉村氏(以下、敬称略):広告やマーケティングに携わったのは博報堂のプランナー時代からです。その頃の博報堂では、今でいうデザイン・シンキング、生活者発想なアプローチを当時から行なっていました。そこで自分は服飾系や金融系などの店頭領域の案件を中心に携わっておりまして、ユーザーに寄り添って、お客様目線で考えて販促を再設計しなおすという経験をしました。
デジタル広告そのものに本格的に携わったのはGoogleに入社してからですね。Googleは外でも中でも言われている通り、すごくユーザーオリエンテッドな会社なんです。当時私が営業戦略に携わっていた頃ですが、売上が今期12月を手前にしてあともうちょっとで目標を達成できるところだったんです。
そこで売り上げ向上のためにあるテストをしてもらったのですが、結果、確かに広告へのクリックは発生するけれども、ユーザーの離脱率が圧倒的に高くなってしまい、滞在時間も短くなってしまった。そしたらすぐに元の仕様に戻されてしまいまして。
その年はちょうどリーマンショックの年だったのですが、目標が達成できなかったわけです。でもたとえ目標を達成できなくても、ユーザーに寄り添う決断をするというビジネスの姿勢をGoogleで経験できたことは大きかったです。
その後、ご縁があって弊社LINEに入る機会があったときも、その時の影響か、やはりユーザーメリットを第一で考えながらビジネスをしていく姿勢に強く惹かれて入社を決めました。
3. 今までの広告の課題「そもそも広告はうざいもの」
https://linebiz.jp/seminar-report/2046/
小東:先日のカンファレンスのなかで「ユーザー、企業、パートナーの3人のお客様がwin-win-winの状態を作っていくことを目指していく」という趣旨の発表がありましが、その背景や課題感にはどのようなものがあるのでしょうか。
葉村:やはり一番大事なのは消費者、ユーザーだと考えています。デイヴィッド・オグルヴィ(David Ogilvy)の時代から言われているように、広告はうざいものなんですよ。言いたいことばかり言っている。
でもこれは僕が広告代理店にいたときから思っていたのですが、広告主にとってみれば自分の商品や自分のクライアントが一番かわいい。例えるなら「相手(ユーザー)はうちのかわいい子となんで結婚しないのか?」という状態のままになっているわけです。
しかしそれだけでは、本当に相手(ユーザー)が結婚したくなるか?と言われても簡単にはそうなりません。広告主はまずそこに気が付かなければいけないわけです。
まったく相手に関係ないことやバカなことをして、仮に相手が面白いと感じ、ソーシャルでバズったから、それがお買い上げに直接つながるかというと、そうではありません。
本当は相手にとって、ユーザーにとって、この人(広告主)はお近づきになりたい人だと思ってもらえればそれがお買い上げにつながる可能性が高まるわけです。やはりユーザーと企業の関係はそう変わるべきだし、その関係を提供できるプラットフォームがLINEだと考えています。
対ユーザー目線でいわゆるホリスティックに、マスも店頭も含めて俯瞰視点で考えられる人はなかなかいません。追いかけている数字はすごく狭まった範囲でのKPIであったりします。先ほどの例でいうと、相手が笑ったことをエンゲージとして計測して、KPIが達成したと喜んでいるようなものです。しかし、笑わせる回数が多ければ良いわけでなく、それが結婚というKGIにつながるかというと必ずしもそうではないわけです。
狭い範囲ではなく、全体を俯瞰することができている広告主のパートナー、ユーザーのパートナー、プランニングのコンサルティング、あるいはそれに必要なツールを提供している企業、そういった方々の存在は非常に大事だと実感しています。
4. ユーザーの役に立つ、ライフソリューションとしての広告
小東:生活の役に立つ、ライフソリューションとしての広告サービスとは一体どういったものなのでしょうか。
葉村:事例としてはヤマト運輸さんのLINE公式アカウントが分かりやすいですね。お届け予定や不在連絡のメッセージを受け取ることができたり、再配達の依頼ができたりしますが、これはユーザーから見てもソリューションだし、企業側にとってのソリューションでもあります。
他の例で言うと、こちらもビジネスコネクトを活用した事例ではありますが、ダイナースクラブさんの「ごひいき予約」もそうです。ダイナースクラブの会員だけに、突然のキャンセルが入った有名店の席の空き情報、いわゆる「ドタキャン情報」をプッシュ通知でお知らせするサービス。
これは飲食店にとってはドタキャン対策になりますし、ユーザー側としても普段予約が取れないような料亭の案内がくるわけです。すべての情報は何かしらのソリューションになり得ます。
AKQAというデジタルエージェンシーの創設者、アジャズ・アーメッド(Ajaz Ahmed)の言葉を引用させていただきます。
- “『マーケティングは私たちをインスパイアし、役に立つものでない限り、ただの公害に過ぎない。私たちの精神を毒するものでしかない。』”
要するに、ユーザーにとってインスパイアされない、もしくは便利でない情報である限り、広告は公害でしかありません。逆にユーザーと企業のコミュニケーションはユーザーにとって役に立つものである必要があり、役に立つものはライフソリューションになります。
そういった存在になるためにプラットフォームもパートナーも各業界の課題やその時のユーザーの心理などを深く理解する必要が出てくるんですね。
小東:前回お話をうかがったLINEスポンサードエフェクトも、ユーザーに自然に楽しんでもらうというLINE社の思想が根本にありましたよね。
5. 今後の展望
小東:最後にLINEとして今後より注力していきたいことをお伺いさせてください。
葉村:プラットフォームとして、企業がより始めやすく、よりいろんな案件で使っていただける存在になれればと思います。いろんなケース、いろんな業界で、または企業の商品ブランド単位など、様々な形で今後成長するアカウントが出てくるといいですね。そう考えるとまだまだアカウントごとに成長の形は違っています。それぞれのアカウントにもう一度再成長できるよう、フォーマットも使いやすいようにしていきたいなと考えています。
小東:ありがとうございました。
この記事を書いた人:小東真人
17年ガイアックス入社のデジタルネイティブ世代。靴磨きが大好きで、休日はInstagramで関連アカウントばかり見ている。