【連載企画】ラストクリックに依存しないモデルを。Facebookが向き合う広告効果測定の課題とは?

2018/05/30

スマートフォンやタブレット、PCなど一人が複数のデバイスを使う時代。広告の効果測定はどのように変化しているでしょうか。

現在、多くの広告効果はコンバージョン直前のクリック(ラストクリック)で測られていますが、動画広告などが増えている昨今、直接コンバージョンに至らなくても購買意欲に影響を与え、間接的な広告効果があることは明白です。

旧来の効果測定が本質的でなくなっている今、どのように広告は効果を見ていくべきか。今回は約20年間デジタルマーケティングに携わってきた、フェイスブック ジャパン 執行役員 鈴木大海氏に、広告効果測定の現状と課題について伺いました。

Interview  / ガイアックスソーシャルメディアマーケティング事業部副部長 大久保亮佑

    ■目次

  1. プロフィール
  2. 広告効果測定の課題は、ラストクリックへの依存
  3. マルチタッチアトリビューション手法の事例
  4. マルチタッチアトリビューションを実践すべき企業とは
  5. 複合的なマーケティングに対応した、新たな計測モデルを

1. プロフィール

鈴木大海 氏:フェイスブック ジャパン 執行役員

2. 広告効果測定の課題は、ラストクリックへの依存

大久保:今回はFacebookが解決する広告効果測定の課題をテーマにお話を伺えればと思います。現在、広告の効果測定においてはどのような課題があるのでしょうか。

鈴木大海氏(以下・鈴木):ご存じの通り、現在効果測定は非常に複雑になっているという課題を抱えています。その背景にはデスクトップからスマートフォンへのシフトやデバイスの複数化があります。

デスクトップのみの時代、中心となっていたのはダイレクトレスポンスで、いわゆる「刈り取り型広告」と言われるもの。これは比較的シンプルな広告で、どのような経路で広告にタッチをしてコンバージョンに至ったのか、ラストクリックで計測しやすい仕組みになっていました。

しかしスマートフォンの登場により、一人が複数台の端末から広告にアクセスするように変化してきました。一人の人がどのような経路で、どのように接触し、どうコンバージョンしたのかが非常に複雑になり、結果、計測するのはもはや不可能になってきているというのが業界全体の課題だと考えています。

Facebookは基本人ベースでの測定を行っています。同じプラットフォーム上であればデバイスの違いは意識せず、表示回数やクリック数、コンバージョン数などを知ることができます。しかしプラットフォームをまたぐと計測が困難になる。これは大きな課題だと感じています。

大久保:効果測定において、ユーザーごとの行動を捉えづらくなったということですね。

鈴木:そうですね。人ベースでデバイスをまたいで計測できるソリューションは、まだ確立されていないように感じています。デバイスもマーケティングプラットフォームも多様化し、タッチポイントも増えています。

一人が持つCookieの数も現在は平均7つほどというデータもあります。その中で、計測手法だけが引き続きラストクリックというのは間違っているといっても過言ではありません。

広告施策全体で考えると若者のテレビ離れが顕著になっています。総務省の調べでも20~30代は、テレビよりスマートフォンを使っている時間の方が長いというデータもあります。短期間でのリーチ拡大施策としてのテレビCMだけでは、必ずしも効果的でなくなっているのです。

そこで、スマートフォンの縦長動画広告などを展開するのですが、それはそれで正しい効果測定ができていない。つまり、ファネルやデバイスの多様化により、問題が非常に複雑になっているにも関わらず、効果測定手法はあまり進化をしていない。出稿する側にとって適切な計測ができないのは継続的に広告を出し続けるには大きな障壁となってしまいます。

3. マルチタッチアトリビューション手法の事例

鈴木氏:そこでFacebookでは人ベースの測定にくわえ、マルチタッチアトリビューションを推奨しています。マルチタッチアトリビューションとはオンラインとオフライン、それぞれの施策を総合的に見て、成果への貢献度を割り出す計測のことです。

大久保:それでは、今までにマルチタッチアトリビューション計測を実施できた事例として、どのようなものがあるのでしょうか。

鈴木:ネスレ様の事例はわかりやすいと思います。ネスレ様は今さまざまな取り組みをされていますが、その中のひとつとして「ネスカフェアンバサダー」の認知拡大があります。具体的には、コーヒーとハードウェアを安価で提供している価値を訴求する広告を展開しました。

しかし広告を見てその場でコンバージョンというのはやはり難しく、実際に広告が寄与したコンバージョンに対してラストクリックで測れたのはほんの一部でした。ただ、弊社のソリューションをABテストのような方法で効果を顕在化させました。

広告を見てそのまま購入に至ったケースと、広告を見てその後一定期間中に購入した人で比較するとおよそ40倍の効果があったのです。つまり、このような態度変容型の広告の貢献によるコンバージョンは、本当は約40倍だったんです。

大久保:ネスレ社はそうした結果を踏まえて、全体の予算配分の最適化を進めていらっしゃるのでしょうか。

鈴木:そうですね、事実として「ラストクリックだけで測ろうとすると測りきれないところがある」ということをご認識いただいた意味で大きな収穫になりました。

4. マルチタッチアトリビューションを実践すべき企業とは

大久保:一方で、予算が比較的小額な企業は取り組んでも、費用だけかかってしまう場合もあると思います。ネスレ社のような取り組みをおすすめする企業の特徴などはあるのでしょうか?

鈴木:効果測定が複雑になりやすいパターンは、やはりマーケティングのタッチポイントも購買チャネルも、オンラインとオフラインにまたがっている時です。ですから企業規模の大小に関わらず、上記のような状況の企業にはマルチタッチアトリビューションをおすすめしています。

5. 複合的なマーケティングに対応した、新たな計測モデルを

大久保:最後にFacebook社としての今後の取組について教えてください。

鈴木:現在FacebookやInstagramのみならず、さまざまなタッチポイントを含めて計測できるツールを開発中です。

基本的には人ベースで、ユーザーのタッチポイントや辿った経路、どのようにコンバージョンに行き着いたかを科学的に解明することに取り組んでいきます。

大久保:開発中のツールに期待したいです。最後に、企業の方に一言お願いします。

鈴木:まずは、ラストクリックに依存する傾向が過去20年間続き、効果測定手法が進化していないことに課題があると業界全体で認識し始めるところが大事だと思います。

Facebookとしては、ラストクリックに依存しすぎると、新規顧客の獲得等、機会損失の可能性があると課題提起しておきたいです。先ほどご紹介した開発中のツールなどを用いることによって、複合的なマーケティングにおける人ベースの計測を可能にし、ビジネスの目的にあった効果測定に貢献していきたいです。

この記事を書いた人:ソーシャルメディアラボ編集部

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