なぜ買い占め騒動が起き、「買いたくないもの」まで買ってしまう? その消費者心理を解説。【書き起こし】
2020/05/25
どうも、ガイアックスの重枝です。今回は新型コロナウイルス騒動という時事ネタを通じて、マーケティングの話をしようと思います。「なぜ人々は買いたくないものも買ってしまうのか?」、このメカニズムを解説します。
※本記事は「ガイアックス ソーシャルメディアラボ」の公式YouTubeチャンネルで配信した内容を書き起こしてまとめたものです。
1. 新型コロナウイルスと買い占め
なぜ買いたくもないものを買ってしまうのか
結論から言うと、買いたくもないものを買ってしまうという行動には、2つの心理が働いています。
ひとつは「無知」、何も知らないということです。そしてもうひとつは「予想・予測」で、この先に何が起こるかを予想・予測するということです。
これら「無知」と「予想・予測」の心理が人間の認知機能に働くことで、今回の買い占め騒動のようなことが起こってしまいます。しかしこのメカニズムを読み解けるようになれば、どういうものが売れるか売れないかということが、ある程度読めるようになります。
生活必需品が買い占められた
まず買い占めが起こったものについて思い出してみると、まずマスクの買い占めがあり、次にトイレットペーパー、オムツと続きました。さらにパスタやカップ麺、米などの保存食や、納豆も買い占められています。
つまり今回のようなパニック時に買い占められるものというのは、生命の維持や快適な生活を確保するための生活必需品です。トイレットペーパーやオムツ、生理用品などは快適な生活に必要なものですし、マスクは生命の維持にかかわってきます。米やパスタ、カップ麺などの食料品も、生命活動にクリティカルなものです。
多元的無知のメカニズム
ここには、先ほど述べた「無知」と「予測」が働いています。ひとつは「多元的無知」という、心理学のタームで言われるメカニズムで、「自分はそう思っていないけれど周りの人はそう信じているであろう」と信じることです。
トイレットペーパーの買い占めについて見てみると、X(Twitter)などでは「トイレットペーパーは品薄でありません」「中国で作っていません、これはデマです」というTweetが多く出回っていました。場合によっては「今のうちに買っておかないとやばい」という口コミもあったかもしれませんが、「品薄はデマです」というTweetが多かったにもかかわらず、実際はどんどん品薄になっていきました。
これはどういうことかと言うと、トイレットペーパーはちゃんと供給されるということを知っていたとしても、「人々はトイレットペーパーが今後品薄になるというデマの方を信じるだろう」と疑ってしまうということです。
「人々はデマを信じる」と疑っている
この場合、「トイレットペーパーはちゃんと供給される」「待っていれば店の棚に並ぶ」という話が出回れば出回るほど、「これだけデマを打ち消す情報が流れるということは、多くの人がデマを信じているに違いない」という多元的無知を強化していくことになります。
その結果、自分はトイレットペーパーが品薄になるとは思っていなくても、品薄になると信じている人が買い占めてしまうから自分も買いに行かなくては、という行動につながります。
予測に基づいて自分の行動を決める
ここにAさん・Bさん・Cさんといた場合でも、すべての人がそのように思っている可能性もあります。つまり、すべての人が「トイレットペーパーはなくならない」と思っていても、同時に「ほかの人はトイレットペーパーがなくなると信じてスーパーに殺到する」と思っている状態です。
自分は真実を知っているが、「ほかの人は真実を知らないがゆえにこういう行動をするだろう」という予測が働き、自分の行動を決めています。正確に言うと予測の予測ですが、このような行動が多元的無知ということです。
さらに言うと「多元的無知で他人は行動しているに違いない」、つまりトイレットペーパーは供給量が確保されると知っていて品薄になると誰も信じてはいないが、みんなトイレットペーパーを買いに行くだろうから自分も買いに行かなくては、という予測の予測の予測という感じで行動パターンが決まるケースも考えられます。
ここで重要なのは、トイレットペーパーは供給されるという真実を知っていても、だからといって今わざわざ買いに行く必要がない、という行動に移るインセンティブがないということです。
インセンティブがないために、デマをデマだと知っている人も、トイレットペーパーやマスク、オムツ、生理用品、パスタ、カップ麺を買いに行くという行動をとってしまいます。
パスタやカップ麺は買いすぎても食べる回数を増やせばいいですが、トイレットペーパーは買い占めたところでお尻を拭く回数が変わるわけではありません。そのためトイレットペーパーはこの先売れ続ける状態が止まって買えるようになりますが、それがいつになるか分からなければ買い占めはしばらく続くでしょう。
他人の行動が読めない
ここには、トイレットペーパーがなくならないという「知」よりも、人の心の中が読めないという「無知」があります。つまり他人の行動や考えが分からないという「無知」と、ほかの人はきっとこういう行動をするに違いないという「予測」が合わさることで、買い占め行動が起こってしまうというメカニズムです。
2. 「他人がいいと思っている」という口コミの方が売れやすい
モノというのは、「〇〇がいいらしいよ!」という口コミよりも、「○○が売れていて品薄らしい!」という口コミの方が売れやすくなります。
人々の行動を加速するためには、そのモノがいいという価値を植え付けるよりも、ほかの人がいいと思っているとか、ほかの人が買いたいと思っているという情報を流す方が、短期的には効果的です。
無知と予測が連鎖して納豆が品薄に
ちなみに納豆は特に生活必需品というわけではないのに、多く売れたということです。
まず一部の人たちが実際に納豆を大量に買うということが起こりました。昔テレビで「ココアがすごく健康に良い」と言った次の日にココアがスーパーの棚から消えたということがありましたが、それと同じような感じで「納豆を食べると新型コロナウイルスにかからない」というような話が一部で出回ったようです。
その結果、納豆が売れて一時品薄になりました。実際に納豆が新型コロナウイルスに効くかどうかというのは、そのうちに情報が出回って消える話ではありますが、納豆の品薄は続いています。
これはなぜかというと、納豆を買えなかった普通の人たちが「納豆も買占められているということは、納豆はこの騒動に関して、トイレットペーパーやマスクやオムツのように重要なキーを握っているに違いない」という予測が働きます。
実際に納豆が買われている理由については無知なのにこのような予測が働き、そして次に見かけたら買おうと思うためますます品薄になっていきます。品薄状態を見かける人がさらに増えて、「トイレットペーパーのように買い占められているということは、納豆になにか重要なことが隠されているに違いない」と思い、とりあえず買ってみる人が増えます。このような無知と予測が連鎖して、納豆の品薄が続いてしまいます。
おもしろいイメージは伝播しやすい
X(Twitter)で見かけたところによると、「茨城県民は感染者が一人も出ていなかった。納豆を毎日食べている茨城県民は感染しない。だから納豆を食べるべきだ」という情報が出回ったようです。
本当にこの噂によって納豆が買い占められたかというのは怪しい話です。しかし「茨城県民が毎日納豆を食べている」というのは完全なステレオタイプで、それが「納豆を食べる=コロナウイルスにかからない」と簡単に結びつきやすく、しかもおもしろいイメージとして記憶に残ります。
このようなおもしろいイメージ、いわゆるミームは、伝播しやすいものです。今回は、茨城県民・納豆を食べる・コロナウイルス・感染者がいない、という内容が「納豆はコロナウイルスに効く」とセットになって広がりました。
しかし、「茨木県民は納豆をよく食べているのでコロナウイルスに感染していない、というデマを信じて納豆を買い占めている馬鹿がいる」というミームがおもしろいので広がったということも考えられます。
つまりはじめはこのような噂は広がっておらず、納豆が買い占められている現状に対して「茨城県民は納豆を食べているからコロナにかからない、というデマに踊らされた」という話ならおもしろくて伝えやすいために出てきた話かもしれません。
口コミマーケティングは綺麗事だけじゃない
このように口コミというのは行動とズレていたり、実際に思っていることと行動がズレていることがあります。しかし口コミの量や質を分析していくと、人々の行動が読めることもあるわけです。このあたりが口コミマーケティングのメカニズムの要諦でもあります。
広告や宣伝などを通じた、企業の一方的なおためごかしの発信ではない発信を聞くことで、自分たちが本当に良いと思った商品を買うという部分が口コミマーケティングの良いところでもありますが、綺麗事だけではないということです。このような「無知」と「予測」のメカニズムによっても、口コミマーケティングでモノは売れていくわけです。
3. 最後に
本記事の内容は「ガイアックス ソーシャルメディアラボ」の公式YouTubeチャンネルでも配信しています。
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この記事を書いた人:重枝義樹