LINE Payのモデルがケニアに!?ケニア人の生活を支えるモバイル送金サービス『M-PESA(エムペサ)』が面白い!
2015/03/12
■モバイル送金サービスの超成功事例「M-PESA」から見るLINE Payの未来と可能性。【前編】
先日の記事では、LINE Payの仕組みについてご紹介しましたが、皆さんは利用されていますでしょうか?対応店舗やサービスが増えていけば、この先も利用者が増えそうな予感がしました。
さて、日本ではかなり新鮮でまだ馴染みの浅いこの「携帯電話のメッセージで送金できるサービス」ですが、実はアフリカはケニアで、LINE Payに似たモバイル送金サービスが成功を収め、人々のインフラとして成り立っていることをご存じでしょうか?
そのサービスの名はM-PESA(エムペサ)。携帯電話のショートメッセージを使って送金するサービスで、Mはモバイル、PESAはスワヒリ語でお金を意味します。
こちらも相手の口座情報を知らなくても送金できるサービスで、使うのは通常の電波(SMS)ではありますが、それ以外はLINE Payとイメージが近くなっています。
今回の記事では、このMペサの仕組み・成功したポイント・懸念点などを分析し、そこからLINE Payの可能性について探ってみようと思います。
前編となる当記事では、アフリカの写真とともにM-PESAの秘密を探っていきます。
- ■目次
- Mペサとは何か?
- Mペサの仕組み
- なぜM-PESAは成功したのか?
- 前編のまとめ
- M-PESAの問題点・競合
- LINE PAYが成功するには何が必要?
ケニアの送金サービス「Mペサ」とLINE PAYの可能性。
【前編】(当記事)
【後編】
本記事執筆にあたり、神戸大学大学院国際協力研究科・高橋基樹教授と、その院生でモバイルマネーに関する研究を行っている岡本晴菜さんよりデータと情報を提供していただきました。岡本さんは私の高校からの友人でもあり、本記事で利用する写真は全て岡本さんが昨年現地で撮影したものです。
1.M-PESAとは何か?
M-PESAとは、簡単に言うと携帯電話で送金から出金・支払までなんでもできるモバイルマネーサービスです。ケニアでは公共料金や教育費などの支払いから、給料の受け取りまで今やM-PESAで賄われています。
万能なのはわかりましたが、それにしても利用率が凄まじく高いですよね。なぜ、このM-PESAなるサービスが、ここまで完全に人々の生活の一部となるほど使われているのでしょうか?その理由を探るべく、まずはM-PESAとは何か・M-PESAの仕組みについてみていきましょう。
1.M-PESAの運営会社と歴史
M-PESA運営に携わっているのは、日本でもおなじみのVodafone Group(ボーダフォングループ)を親会社に持つSafaricom(サファリコム)というケニアの携帯会社と、ケニアの大手銀行の1つであるCommercial Bank of Africa(CBA)です。
当初はマイクロファイナンス(貧困層向けの小口融資)のツールとして開発されましたが、人々が主に送金機能として利用していることがわかり、最終的に2007年に送金サービスとして正式リリースされました。
当初銀行に反対されたM-PESA
M-PESAはリリース当初からあまりにも爆発的にユーザーが増えすぎて、各銀行から猛反対を受けたという過去もあります。元々銀行の利用率の低かった郊外の住人や低所得の人たちがより身近で簡単なM-PESAに移行し、いっそう銀行口座を開かなくなったからですね。
ですが、政府がM-PESAのセキュリティに問題はないと判断し、利用者も対応店舗もますます増えていったので、銀行にとっては反対するのではなくいかにMペサと提携するか、ということが課題になっていきました。
2.M-PESAの仕組み
先日LINE Payの仕組みをご紹介しましたが、M-PESAはどのような仕組みになっているのでしょうか?似ている点と異なる点があるので、比べていくと面白いことがわかりました。
「ネット」ではなく「電波」を使う
まず根本的にLINE Payと違うポイントとして、M-PESAは通常の電波を使うという点があげられます。
ケニアのような国では、郊外に行けばそれはもう見たことのないような広大な風景が待っているので、そもそもネットはあまり普及していないようです。これにより、ガラケーでも送金が可能となっています。
M-PESAの情報はSIMカードに集約されている
また、M-PESAのアカウント情報は全て携帯のSIMカードに集約されています。
そもそもケニアでは、携帯電話を所持しているのは一般的に18歳以上です。18歳になると国民IDカードが配られるので、それを利用して初めてSIMカードを購入できます。いわば携帯電話が国民の身分証明書の1つなので、SIMカードに金額の情報が入っていてもなんら違和感はないのかもしれませんね。
ちなみにもしSIMカードをなくしても、アカウントの残高と一緒に再発行することが可能だそうです。
18歳未満の人たちは携帯を使わないの?
では18歳未満の人たちは携帯電話を使っていないのでしょうか?
実はそういうワケでもなく、裕福層の子供たちは親が2台持ちするなどして割と普通に使っているようです。良いんだ、それで…。
M-PESAの機能
送金や引き出しなど、M-PESAに備わっている基本機能をご紹介します。
・Send Money(送金)
相手の携帯番号・送りたい金額・あらかじめ設定した暗証番号を入力したショートメッセージを送信するだけで、M-PESAの口座から任意の相手にお金を送ることができる。
・Withdraw Cash(引き出し)
近隣のM-PESA取扱店で現金を引き出す機能。金額・取扱店番号・暗証番号を画面上で入力し、身分確認をすればその場で現金を受け取ることができる。
・Buy airtime(通話料購入)
M-PESAアカウントにある金額から通話料を購入する。自身の通話料だけでなく、他人の通話料も購入することができる。
・M-Shwari(銀行口座機能)
預金をしたりローンを組むことなどができる、いわゆる口座機能。M-PESAとは別に登録が必要。
・Lipa na M-PESA(支払・決済)
電気代や水道代・学費などの支払いを自動的に決済してくれる機能。
・My account(アカウント情報)
M-PESA取扱店はどこにでもある
M-PESAからお金を引き出したり入金ができるM-PESA取扱店は、街の至る所にあります。
3.なぜM-PESAは成功したのか?
M-PESAの仕組みは、案外シンプルだということがおわかりいただけたかと思います。ではなぜこの送金サービスが、これほどまで多くの人に使われるようになったのでしょうか?Mペサが成功している理由をひも解いていくことで、LINE Payがこれから普及していくために必要なステップも後程分析していきます。
1.極めて高い携帯電話の普及率
まずケニアは、携帯電話の普及率が猛烈に高いというデータがあります。現在では、2台持ちの人も含めると携帯電話の所持率は成人人口の100%超えという意味のわからないデータまであります。なんでも、あのマサイの戦士たちも携帯電話で情報交換をする時代になっているとか…。
・参照:http://www.soumu.go.jp/g-ict/country/kenya/detail.html
要するにケニアでは今や何もかもモバイル化というのが当たり前になっているんですね。正直、勝手なイメージでIT化は日本の方が進んでいると思っていましたが、ケニアでもある意味IT化がかなり進んでいます。よくよく生活環境を考えてみればその理由も頷けます。例えばケニアでは、農村同士でもめちゃくちゃ離れてたりするので、線なんかとても引いてられないため固定電話よりもモバイル、という流れになったんですね。
そんなモバイル大国に現れたモバイル送金サービスですから、まず確実に流行る土台は出来上がっていたということですね。
マサイの戦士たちによる高度な情報戦
…ちなみに余談ですが、今いわゆるマサイの戦士たちの多くは通称「ビジネスマサイ」に鞍替えしており、それこそ携帯電話などを駆使していつどんな観光客が来るかを把握し、例の衣装を着て現れてお客さんを喜ばせているそうです。なんだかちょっぴり夢のないお話ですが…マサイの人たちも大変なんですね…。
「携帯電話のシェア」という文化も!
余談その2ですが、前述の通りM-PESAの口座情報や通話料などは全てSIMカードに紐づいているので、携帯を持っていない人もSIMカードだけを所持し、人から端末を借りてSIMカードを挿入して通話や入出金をするといった使い方もされているようです。
そんなこんなで、携帯電話屋さんは多く、そして日本並みに繁盛していたらしいです。
2.国民の文化的なニーズにマッチした
高い携帯電話の普及率に加えて、M-PESAはケニアの人々の生活文化に非常にマッチしたという点も成功の要因として上げられています。
都市部ではお金よりも電子マネーで決済した方が便利なため、現金を持ち歩かない生活スタイルが主になっており、逆に一部の農村部では半自給自足のため、すぐに現金が引き出せるMペサは貴重なサービスとなっています。
したがって、都市部の人たちは主に決済か送金のためにMペサを利用し、農村部の住人は主に受取や出金のためにM-PESAを利用するという、完全にM-PESAの用途が分かれていることを示す興味深いデータもあります。M-PESAの万能さが全ての国民のニーズにマッチしたんですね。
出稼ぎの際の原始的な送金手段がM-PESAのルーツ
またまた余談ですが、M-PESAのルーツもこの農村部と都市部の生活環境の違いが大きく関わっています。
農村部に住む人たちは都市部に出稼ぎに行くことも多々あります。そこで問題になってくるのが、田舎に残した家族をどうやって養うのか。銀行口座もないので振り込みも送金もできない……。そんな時使われていたのが、「プリペイド・エアタイムモデル」という手法です。
そういった、「携帯電話を使った送金」という発想が既に根付いていたことも、M-PESAが自然と受け入れられた要因の1つでしょう。
3.優れたCMマーケティング
またM-PESAは、コマーシャルマーケティングが非常に優れていたことも、普及に貢献した要素の1つとして上げられます。
絶妙の安っぽさが独特の親しみやすさを生んでいる素敵な動画ですが、日本に住む私たちでも一発でM-PESAの良さを理解できるので、これでガッチリケニア人のハートを掴んだんですね。
4.コールセンターが充実
送金となるとやはりトラブルが付き物になってきますが、Mペサはコールセンターが非常に充実している点も、利用者の信頼を得るという意味で貢献しています。
元々Safaricomはケニアで一番有名な携帯会社だったので信頼度は高かったそうですが、地道で丁寧な対応もユーザーを増やすには不可欠なんですね。
前編のまとめ
ここまでM-PESAの概要と成功した要因についてお話ししてまいりましたが、いかがでしたでしょうか?個人的には知らないことばかりで、岡本さんのお話を聞いていてワクワクしました。
M-PESAの成功の背景には、サービスそのものの良さだけでなく、ケニアの文化的な側面も密接に関わっていることがわかりました。
では、そんなM-PESAには何か欠点はあるのでしょうか?またこのM-PESAの事例から、LINE Payが今後拡大していくためには何が必要なのでしょうか?M-PESAとの違いやLINE Payにしかない強みなどについても、明日公開する後編ではお話ししてまいりますので、引き続きぜひご一読ください!
以上、『LINE Payのモデルがケニアに!?ケニア人の生活を支えるモバイル送金サービス『M-PESA(エムペサ)』が面白い!』でした。
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この記事を書いた人:ソーシャルメディアラボ編集部