”SNS”という言葉では捉えきれない。広義化する中国のSNSで重要なマーケティングとは?
2018/02/15
日本の企業にとって魅力的な中国マーケット。さらなる成長が期待され、日本以上にSNS利用が活発な状態です。少子高齢化に伴う人口減少で年々内需の落ち込みが予測される日本国内だけでなく、中国の様な巨大市場から外需を獲得していく動きが少しずつですが盛り上がりを見せていますね。中国でのアウトバウンドマーケティングを成功させるためには、中国SNS事情の把握が重要です。
そこで今回、以前に取材させていただいた株式会社ホットリンク様からグローバルブランドとして分社化した、ビックデータを活用した中国SNS市場のソリューションを提供するトレンドExpress代表取締役社長、濱野氏にお話を伺いました。トレンドExpressで実際に行ったSNS施策の事例を交えつつ、中国でのSNSマーケティングやSNS市場を解説していただきます。
Interview / ソーシャルメディアラボ編集長 大久保亮佑
Text / ソーシャルメディアラボ編集部 荒川颯太(@as_hb_acc)
- ■目次
- プロフィール
- 広義になってきているSNS
- 中国のSNSマーケティングで必要なことは?
- 中国における消費の変化
- 各企業との市場作りと橋渡しを担う
1. プロフィール
濱野智成 氏 :株式会社トレンドExpress代表取締役社長
大学卒業後、外資系グローバルカンパニーでマネジメント業務に従事。その後、オーストラリアでのコンサルティング実務を経験後、世界有数のコンサルティングファームであるデロイト・トーマツ・グループに入社。グループ最年少のシニアマネージャーとして東京支社長、事業開発本部長を歴任。2015年11月、東証マザーズに上場する株式会社ホットリンクに参画。執行役員 経営推進本部長兼CHRO(最高人事責任者)、米国子会社Effyis.inc取締役を歴任。2017年1月、株式会社ホットリンクCOO及び株式会社トレンドExpress 代表取締役社長に就任。
2. 広義になってきているSNS
大久保:昨年のインタビューを踏まえて、中国国内のSNSの変化した部分についてお聞きしたいです。
濱野:前提としてSNSが分散化してきている点、また、いくつかの大手企業の買収等によって寡占化され可処分時間の取り合いが発生している点があります。そのためSNSというカテゴリーをかなり広義に捉えた方がいいと考えています。潮流で言うと、強力なメディアがスピーディーに台頭してきて、アリババやテンセントのような巨大なプラットフォームの傘下に入っていく流れです。
https://itunes.apple.com/jp/app/wechat/id414478124?mt=8
一つの例として、みなさんもよくご存知の中国版LINEの「微信(ウェイシン)」(中国語版:微信/Weixin、英語版:WeChat)はその絶対的なシェアを活かしてどんどん機能を追加しています。微信さえインストールしていれば、コミュニケーションツールとしてだけでなく、既に微信に組み込まれ新しくダウンロードする必要のない、ミニプログラム(ミニアプリ)経由で様々なアプリに連携が可能で、エコシステムとして機能しています。
また、FacebookやX(Twitter)みたいな一般的に言うSNSと、動画メディア、ECなどとの境が無くなって来ているのではと思います。例えば中国最大のECサイトの淘宝網(タオバオ)でも最近は動画メディアのような機能も果たしていますし、テンセント社傘下のクチコミ投稿サービス大手で中国版食べログと言われる大衆点評(美団点評)というメディアではECやフードデリバリー、エンターテイメント予約機能等がもあり、そういう意味で可処分時間の取り合いが行われていると言えます。
他にもアリババとテンセントといった企業はオフラインに対してすごく力を入れています。アリババは大手スーパーマーケット買収や新規展開に着手しています。テンセント社傘下の中国ECの大手京東(ジンドン)に関しては、コンビニエンスストアや無人コンビニなど、そういった形態のサービス展開を進めていますね。
中国のモバイル決済比率が90%を超えていると言われていますが、EC等のオンラインの場やスーパーマーケットや飲食店のオフラインの場でもアリババやテンセントが展開する決済サービスが完全にインフラになっています。
つまり、オンラインでもオフラインでも、あらゆるカテゴリーで可処分時間の奪い合いが行われていると言えます。ですので最近はもう、中国の大手企業がライフスタイルの可処分時間をどう設計して奪っていくのかというような視点で見ています。
3. 中国でのSNSマーケティングで必要なことは?
大久保:可処分時間を握っているプラットフォーム上で、いかに広告を打つかが重要になるのでしょうか。
濱野:確かにそうですが、メディアは多様化・分散化が進んでいるので一概にそうとも言えません。日本から中国にSNSマーケティングをする際に、昔は「微信(ウェイシン)と微博(ウェイボー)を運用しましょう」と啓発する方も多かったですが、正直言ってそれで効果を出すのは難しいでしょう。
中国のソーシャルメディアマーケティングは、情報の信頼性×面白さ×拡散力の3つが、最終的にユーザへーリーチするために重要です。消費者のインサイトを掴み、どれだけアテンションを高め、オーガニックな口コミを作れるかが必要かと。
信頼性の高い情報ということで、ユーザーの面をとるPR記事で拡散させると、勝手にインフルエンサーやSNSに転化されていくケースも多々あります。そして、その流れが意外と消費者に情報が届きやすかったりします。そのフローを実現させるために、まずは消費者のインサイトを発掘し、バズに影響するワード抽出とメディアを選定し、プロダクトとユーザーをマッチングさせるスキームが必要ですね。
一つ事例をあげますと、中国でなじみの無いアームカバーという商品を展開している日系メーカー「トレイン」さんがいます。PR施策だけで30万個の在庫を1ヶ月で売り切りました。
http://www.train-shop.net/brand/special/2016_armcover.html
大久保:記事広告みたいなイメージですか。
濱野:広告というよりはPR配信ですね。中国国内のメディアに取り上げてもらうために記事を提供し、掲載させて貰えないかを交渉します。中国国内において、ユーザー視点であるインフルエンサーの配信もよく使われますが、広告色も強いので記者視点でのPR記事は信頼性が高いです。その記事の働きによって口コミが10倍以上になり、更にPRを重ねることで商品の売り切れに繋がりました。
▲施策後、書き込み数が10倍に
トレンドExpressさんの資料より
アームカバーの訴求点は日焼け止めです。日焼け止めに関連する多くの投稿がありましたが、塗るのが面倒臭い、ベタベタするといったネガティブなワードが多数見られました。そこで「その課題を解決するのがアームカバーですよ」というPRを実施して顧客インサイトを刺激しました。
加えて、中国では「海外で流行っているもの」に対してアンテナが高いです。そのアンテナを利用して、まず海外で流行っているというコンセプトを持ち出します。そうすると、そのコンテンツが一気にインフルエンサーやSNSで取り上げられてバイラルしました。その結果としてアームカバー30万個が一気に売れています。
SNSの分散化が進む中で、消費者の可処分時間の奪い合いになっている点は先程お話ししました。我々のマーケティングのロジックはそこを利用しています。信頼性のある大きなメディア(可処分時間を多く奪っているメディア)から一気に情報を拡散させて、結果として閲覧するユーザーが増えれば、商品情報が自然に消費者にリーチします。
トレンドExpressさんの資料より
SNSネイティブのような人達が歳を重ねていくと、SNSの影響力はさらに増えてくるでしょう。その流れは今後の日本も変わらないと思います。その点中国は日本よりSNSの普及が進んでいるのでロールモデルになりやすいですね。
コンテンツの「熱しやすさ」と「冷めやすさ」
大久保:その他、中国でのSNSマーケティングで注意などありますでしょうか。
濱野:中国では、コンテンツの隆盛後にすぐに冷めてしまうケースが挙げられます。
トレンドExpressさんの資料より
メイベリンさんが一つの事例です。アンジェラベイビーさん(上図)という中国で影響力のある芸能人がいまして、衝撃的なプロモーションを行いました。1日の内に1万本の口紅を売り切ったのですが、その後すぐにクチコミが冷めてしまいました。このように熱しやすく冷めやすい特徴があるので、ブランディングは継続的に実施していく必要があると思います。
大久保:継続的に口コミが生まれるようにするのが重要なんですね。
濱野:おっしゃるとおりです。情報の行き交いが激しいので、簡単に情報が埋もれてしまいます。インフルエンサーマーケティングも同じことが言えます。例えば1人のインフルエンサーが1月15日に投稿するとします。1月16日ではその投稿がタイムラインのかなり下の方に埋もれて、他の投稿が露出しています。これでは投稿が見えなくなってしまいますね。いわゆるフロー情報で終わってしまう。
人気のある情報も、1回は盛り上がりますが、その後は必ず下がります。情報をどの様に積層させていくかが重要です。そのためには、情報を継続的に配信し続けることがとても重要です。
4. 中国における消費の変化
大久保:中国国内における消費者の今後の展望をお聞かせください。
濱野:経済の成熟化と共に消費力の上昇と娯楽の多様化が進んでいて、モノの消費からコトの消費(体験消費)が隆盛していると感じます。例えば、無人カラオケとかミニシアターとかいろんなものが出現しています。中国では、上海、北京といったいわゆる大都市を「一線都市」と呼びますが、一線都市では特に成熟化や多様化が進んでいます。
また比較的地方の都市である「二線都市」、「三線都市」にも変化が起きています。以前よりも消費力が高まってきていて、外資系の小売企業の出店拡大が地方都市にも進んでいます。
とあるアパレルメーカーさんから伺った話なのですが、2010年くらいまで上海とか北京といった沿海地域でないと、外資ブランドが勝負できなかったそうです。それが現在では内陸の二線都市、三線都市でも勝負ができるようになってきています。彼らの消費力が上がってきているなというのが印象です。そうするとEコマースはよりチャンスが広がってきますね。
他にも、二線都市、三線都市から日本にやってくる中国人観光客の人口も徐々に増えてきています。
結論として、中国の経済成長に伴って一線都市に限らず様々な都市の購買力が高まっているかなと。
もう一つ、今後の展望を付け加えると「ベビーブーム」もあるかと。2016年頃からに大きく上がっている出生数予測が2017年は2000万人に増加しているのですが、いわゆる一人っ子政策が撤廃されたのが大きな理由です。それに伴ったベビーブームによってベビー関連の需要が拡大している特徴も見られますね。さらに、中国では健康ブームが大きなうねりを起こしており、「赤ちゃんや子供には安全安心なもの」という考えがより一層普及しています。ベビーブームや健康ブームの拡大に伴う日系企業の安全安心の魅力は、中国で大きなチャンスがあると思います。
5. 各企業との市場作りと橋渡しを担う
大久保:御社のマーケティング施策は中国の現地法人さんでも活用されるのでしょうか?
濱野:現地法人さんも支援していますし、活用いただいています。
日本からのアウトバウンドっていうのは、市場でいうとまだまだ黎明期です。本当に内需がなくなってこない限り、わざわざ中国や海外に本気にならないと思います。たとえば「越境ECでモノを売っていこう」っていうのは、まだ市場ができているようでできていない。
一方で、中国にすでに進出して上手くいっている一部の会社さんって、既に中国で売上をあげるために本気で動いていて予算もついています。そういった会社さんは、我々のような中国でマーケティング支援ができる会社を求めているようです。日本企業による中国へのアウトバウンド市場を温めつつ、中国国内での支援も加速しています。
我々としては、この外需を取り込むための海外マーケティングの市場を多くの企業と共に活性化したいと思っています。
競合を作らずに市場を温めていくという点でどの企業とも協業するパートナーです。我々のソリューションは口コミを活用するという特質性があるので、様々なマーケティング会社さんも担いでくれます。
そういう意味では中国系企業さんも同じです。現地の話をさせていただきますと、日系企業は日系に、中資系企業は中資系企業に支援を依頼することが多く、そこの敷居はまだまだ高いです。
本当に良いソリューションを我々の存在でボーダレスにつなげることができれば、まさに当社のミッションである「人世界をつなぐ」ことの体現になります。中国企業で強いソリューションを持っている会社はたくさんありますが、なかなか日系企業を開拓できない。中国企業と付き合いたいけど、なかなか敷居が高いと苦戦される日系企業など、両者に悩みは沢山ありますので、そこを我々流に橋渡しをしています。
以上の様に「人と世界をつなぐ」というのを企業ミッションの下、中国企業と組むこともありますし、彼らのソリューションを担いで日系企業さんに橋渡しをすることもあります。
大久保:なるほど、ありがとうございました!
この記事を書いた人:ソーシャルメディアラボ編集部