災害や非常時の企業SNSはどうするべき?事例とともに解説
2024/02/14
今回は自然災害時における企業SNSアカウントの振る舞いについてです。
地震、津波、土砂崩れ、大雨、台風と日本は自然災害の多い国です。また、これらの件数や被害額は近年増加傾向にあるとも言います。そして何より、ソーシャルメディアの登場によって直接現地とつながれるようになった現在、物理的距離のある地域で起こった災害も、身近に感じられるようになりました。
- ■目次
- 過去の災害時の事例
- 災害・非常時の企業SNSアカウントの対応方法
- 災害・非常時の企業SNSアカウントの対応事例
1. 過去の災害時の事例
「企業は社会の公器」という言葉があるほど、企業がこの社会に深く根差した存在であることは間違いありません。
自然災害などの非常時、大変な思いをされている方がいる中で日常的な発信や、あるいはお祝いやお祭りムードの発信はどうするべきなのでしょうか? やはり自粛するべきなのでしょうか?
まずは実際の事例から何が起こったか、どのような意見があるのかを振り返りながら見てみましょう。
たとえば、2018年の西日本豪雨の際には、政権与党政治家が参加した「赤坂自民亭」と言われる楽しげなムードの会合が非難を浴びました。積極的に発信したわけではないですが、配慮に欠いた行動と取られたのです。
参考:https://www.asahi.com/articles/ASL7B5W6WL7BUTFK01C.html
一方で、ある地域が大変だからといって他の地域まで自粛ムードに入ってしまったら、経済が回らず、結果大変な地域を支援する余力も削がれるという論理もまた成り立ちます。
参考:http://weblog.horiemon.com/100blog/38454/
また東日本大震災の時も、直後はともかく、しばらく経った後は、お笑いなどのバラエティ番組を視たいという声が被災地から上がってきたということもあります。辛い時だからこそ、笑いなど息抜きが必要だという論理もあります。これもよく分かる話です。
参考:http://www.asahi.com/special/10005/TKY201105200243.html
企業や公人が本当に恐れるのは「不謹慎」そのものというよりも、むしろ「不謹慎狩り」ということもあります。不謹慎狩りとは、世間に自粛ムードのある中、誰かの発言や行為をとらえて「不謹慎である」と非難する行動のこと。
不謹慎の指摘が目的なのではなく、不謹慎を理由に引きずり下ろしたり、マウンティングすることが目的化しているのではないかと推測できるようなケースも少なくありません。
参考:https://ironna.jp/theme/542
こういった目的の不謹慎狩りではしつこく攻撃してくるので厄介です。
しかし、実際にはこのような不謹慎狩りに対し多くの人は同調していないことが多いです。不謹慎狩りを行っているのは極々一部の人間というのはよくある話で、炎上研究でも示唆されている事実です。
参考:http://keisobiblio.com/2016/04/22/atogakitachiyomi_netenjo/
さて、ここまで災害発生時の情報発信に関する様々な事象を見てきました。では実務上は、どうすればいいのでしょうか。
2. 災害・非常時の企業SNSアカウントの対応方法
企業がどれくらい不謹慎狩りに配慮すべきか、明確な判断基準を作ることは難しいですが、企業としての対応を決める際の判断軸は大きく2つあります。
①当事者性
まず当事者性ですが、起こった災害に対して「一義的、あるいは直接的な責任を負っているか」という判断軸です。この答えが「YES」の場合は、通常運転の発信は控えるべきでしょう。
たとえば、災害に対しては当事者あるいは周辺自治体、規模によっては政府や国会議員という話になります。企業では、当該地域に根ざしたサービスを展開しているところで、たとえばホテルや遊園地などです。
では、その地域でも商品やサービスを展開しているが、それ以外でも提供しているという場合はどうすればいいのでしょうか。たとえば、旅行関連業界だったら、ほかの地域についての投稿はしてもいいですが、災害地域の観光情報は控えるべきでしょう。
また、不要不急の広告などは、その地域での配信は控えた方がいいこともあるでしょう。不要不急というのがなかなか難しいところではありますが、その地域の人々にとって、災害時に必要な情報、あるいは災害をおしてでも必要な情報であるかどうかという判断になります。
一方で、当事者から遠いのに、下手に「自分は分かっている」というようなポーズを示す、あるいは当事者に成り代わったような代弁的情報発信も逆効果です。「マイノリティ憑依」というのは逆に不謹慎であるという考え方もあるからです。
参考:http://lite.blogos.com/article/35299/
もちろん、一義的に当事者ではないからといって、配慮が不要になるわけではありません。しかし、通常運転を止めてしまうというのはやり過ぎなことが多いと考えます。例外はもちろんあるので都度検討は必要ですが、適切な距離感での配慮ができている状態であれば大抵は大丈夫でしょう。
②緊急性
これは地域に関わらずほとんどの企業があてはまることです。
たとえば、2018年6月の大阪の震災(https://ja.wikipedia.org/wiki/大阪府北部地震)の直後ですが、都市部で震度6弱ということもあり、被害の状況はもしかすると阪神淡路や東日本の時のような展開になるのでは?という不安がリアルでした。
2019年6月に新潟で震度6強を記録した山形県沖地震(https://ja.wikipedia.org/wiki/山形県沖地震)に関しても同じでしょうな状況がありました。
そのような時は被害状況が明らかになるまで、発信を控えるというのが賢明です。それは、あとで大変だったということが分かった時に非難を受けるからではありません。皆が、必死で正確な情報を集めている時だからです。
そのような時に通常運転の「もうすぐ海の日ですね!」という平時だからこそ楽しい投稿や「弊社は本日で創立100年を迎えました」というようなお祝い発信は心象が悪いでしょう。
しかし、たとえば病気にも、急性期、回復期、慢性期とあるように、災害直後で緊急事態の状況が過ぎれば、通常運転に戻してもいいものがあります。
また、2018年の豪雨被害(https://ja.wikipedia.org/wiki/平成30年7月豪雨)に関しては、地震のように一瞬で明らかに大きいものだと分かるわけではなく、ジワジワと被害が広がるということがありました。
こういうケースでも状況を逐一確認しながら、通常運転の中でもさらに是々非々で、発信を行なったり、行わなかったりするということが正解になります。
この当事者性と緊急性という2つの軸を中心に考えていけば、不謹慎と非難されることを過度に怖れる理由はないでしょう。次は当事者性と緊急性の観点から、自粛すべきと判断した時、実際にどうするか見ていきましょう。
3. 災害・非常時の企業SNSアカウントの対応事例
まずは、予定していた投稿はいったん見直し、下記の方針での運用を検討すべきでしょう(特にキャンペーンなどは要注意です)。
- A. 非常時の運用に切り替える
- B. 投稿を中止する
Aは災害に対応した投稿を行うということです。具体的事例は後ほど示しますが、災害時に必要な自社の製品やサービスにまつわる情報発信を行ったり、有益な情報を適宜流すということです。
Bは文字通り「一旦すべての投稿を止める」ということです。Aのパターンのような即時的な対応ができるリソースがない、意思決定が急にはできない、もともとのアカウントにふさわしくないという企業も多いでしょう。
その場合は、せめて事態の全貌が明らかになるまでいつも通りの運用を一旦停止するなどで対応しましょう。
緊急事態発生時の企業SNSアカウントの投稿例
トヨタ
【お知らせ】石川県で発生した地震に伴う通れた道マップを公開しております。https://t.co/N818rOd4fC
— トヨタ自動車株式会社 (@TOYOTA_PR) January 1, 2024
「通れた道マップ」という、
これは普段から準備していたのでしょう。自動車メーカーとして、
また、震災に絶大な影響を受けるインフラ企業、
北陸ガス
先ほどの地震により、北陸ガスの供給エリアにて強い揺れを感知したため、現在、ガス製造・供給設備の状態を確認しております。地震により万が一ガス漏れが発生している場合やガスメーターの安全装置が作動し、ガスが出なくなっている場合は、以下の手順に沿ってご対応お願いいたします。 pic.twitter.com/hckE4pxva0
— 北陸ガス (@Hokugasofficial) January 1, 2024
また、震災に絶大な影響を受けるインフラ企業、
その後も震災時のガスの安全対応や、
現在、ガスの供給を継続しながら、新潟市西区など新潟市内の一部で発生しているガ ス漏れの修理対応に全力であたっています。なお、地震により、ガス漏れが発生している場合や、ガスメーターの安全装置が作動し、ガスが出なくなっている場合があります。 以下の手順でご対応をお願いいたします。 pic.twitter.com/JBQGnc1rjq
— 北陸ガス (@Hokugasofficial) January 1, 2024
シャープ
なお念のため、災害時の家電の取り扱い注意点です
・破損した太陽光パネルには触らない
・冠水した製品には通電しない
・停電時は家電のコンセントを抜く https://t.co/IykwUICsBl— SHARP シャープ株式会社 (@SHARP_JP) 2018年6月18日
大手家電メーカーであるシャープは災害時の家電の取り扱いについて注意喚起を行っています。
自社の商品・サービスにまつわる震災時の注意喚起を行うというのは、とても真摯な態度です。ウェブサイトに載せている場合もあるでしょうから、そのリンクシェアでもいいでしょう。
また、自社と直接関係なくても、有益と思われる情報をリポストしていることもあります。
このような姿勢こそが多くの企業で打ち出している社会貢献という価値を体現していると言えるでしょう(デマを拡散しないように、オーソライズされた情報をシェアするように気をつけましょう)。
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この記事を書いた人:重枝義樹