拡散性の高い量産型コンテンツは捨てるべし! コミュニティ活用から成果に繋げる、DODA式オウンドメディア論
2015/08/26
昨今、さまざまな企業がオウンドメディアを立ち上がるなか、リリース前にテスト公開した記事において、Facebookのいいね!をいきなり5,400も叩き出した「“未来を変える”プロジェクト〜未来を変える、を考えるためのビジネスマガジン&コミュニティ〜」(以下、「“未来を変える”プロジェクト」)をご存知でしょうか。
こちらを仕掛けたのは、株式会社インテリジェンスの三石原士さんとインクルージョン・ジャパン株式会社(以下、ICJ)の吉沢康弘さんです。
今回は、お二人に「“未来を変える”プロジェクト」のユニークな取り組みについて、詳しくお話を伺いました。
■目次
1.公開当初から3000いいね!を叩き出すコンテンツづくりの仕組みとは
2.参加者意識を高めるコンテンツ作りの秘訣
3.DODAがオウンドメディアに賭ける理由
公開当初から3000いいね!を叩き出すコンテンツづくりの仕組みとは
ガイアックス 管(以下、管)
6月18日のリリースから約1ヶ月経ちましたが、リリース当初から大ヒットを飛ばし続けていますよね。私のタイムラインにも友人がシェアした記事が流れてきました。
インテリジェンス 三石(以下、三石)
ありがとうございます(笑)。実は、公開まで1年半くらい立ち上げの準備をしてきており、他のオウンドメディアでは考えられないほどの大掛かりな仕掛けを裏で回しているんです。
管
1年半も! 大掛かりな仕掛けとは、具体的にどんなものなのでしょうか?
三石
私はDODAのマーケティング部門におりまして、転職を考えていない潜在層に対する認知向上のミッションが課せられています。
そこでオウンドメディアを立ち上げることにしたのですが、ターゲットのイメージは「グロービスに通う人」。「これからの働くを考える」をテーマに、キャリアの可能性を探求されている方に、自身の新たなキャリアについて考えていただこうと。
数多くのオウンドメディアが乱立するなかで成果を上げるには、「ソーシャルメディア上で一過性の拡散を期待する量産型のコンテンツ」ではなく「じっくり読みこんで腹落ちしてもらえるコンテンツ」をつくらなければいけないだろうという考えに至りました。
そこで「リアルなイベントを開催し、その内容をもとにコンテンツをつくり上げていく」という、一風変わった取り組みを始めました。
管
かなり異色なコンテンツのつくり方ですね。
三石
これだけ入念に準備してきた甲斐あって、現時点で3本のテーマ記事を出しているのですが、それぞれ1600・2500・3000いいね!がついており、PVでは1本あたり数万PVを叩き出しています。
これだけ面倒なやり方をしてでも「刺さるコンテンツ」がつくれれば、拡散して被リンクが集まるので、SEO対策にもなってコストが回収できます。
オウンドメディアの悩みとしてよくあるのが「誰にも見てもらえない&拡散しない」というものですが、この方法ならデリバリーがすごく強化されるので、そんな心配をする必要はなくなります。
ICJ 吉沢(以下、吉沢)
メディアを立ち上げるにあたって、いろんな人に相談しながらコンセプトを固めていきました。
そのなかで、バイラルメディアの対極を目指そうという方向性が見えてきて……。
猫カワイイみたいな脊髄反射的なおもしろさを一方的に配信するバイラルメディアが乱立するなかで、リテラシーが高めのインフルエンサーがコメントをつけることで、一定の双方向性を付与したNewsPicksがアンチテーゼとして出てきました。
これをもっと徹底的に右上のポジションを狙えないかなと。
吉沢
3000いいね!がついた「学習」に関するテーマ記事を例に挙げると、50名を集めたイベントで「学習って大事だよね」くらいのゆるい議論テーマで話し合ってもらった後、「何が気になりましたか?」といったオープンクエスチョンのアンケートをとります。
そのアンケート結果を眺めていると、学習のなかでも特に「やらされる学習」について気になっているのか、というのが見えてきたんですよ。
次に、それをもとに僕らも含めた6〜7人で編集会議を開き、「どうしてみんな、この話題が気になっているんだろう?」「これを解決するために提案できることは何だろう?」「構造化するとどんな構成要素が挙げられるか」といった細かい分析をしながら議論を重ねます。
ここからやっと執筆に取り掛かるのですが、ドラフトができた時点で「イベントに参加した人」と「関係ない外部の人」が半々くらいの割合になるように、いろんな人に読んでもらって、フィードバックをもらいます。
ここで「イベントに参加していない人にも響く内容になっているか」「切り口をこう変えたほうがもっとわかりやすい」といったように、何度も推敲を繰り返し、調整していくんです。
軸はぶれないようにしていますが、この過程でボコボコに叩かれるので、初稿からは毎度ガラッと変わってしまいます。
そして最後、リリースしたときには、コンテンツをつくる過程でお世話になった方たちに、御礼とともに記事のリリースを個別に連絡します。
そうすると、先方はみなさん内容をわかっているので、すぐに自身のコメントともにシェアしていただけるんですよね。
参加者意識を高めるコンテンツ作りの秘訣
管
一つずつ掘り下げてお伺いしたいのですが、リアルなイベントとは、どのような形式で行われるのですか?
吉沢
40〜50名規模のイベントで、アメリカのカンファレンスでよく使われているワールドカフェという手法を取り入れています。
各テーブルに4名が座り、議論テーマについて15分間話し合った後、1名だけテーブルに残り、3名は他のテーブルに移動して、再び異なる人と同じテーマについて話してもらうんです。
「前のテーブルではこんなことを話したよ」と共有してもらいながらですね。それを3〜4回繰り返した後、最初のテーブルに戻ってきてもらって、自分が得た情報をシェアしあう。
思考を整理するために、テーブルに敷いた大きな紙に自由に書き出してもらいますが、特に発表することはありません。気軽に言いたいことをぶちまけてもらうんです。
こうしたインタラクティブな形式を取ることで、いろんな人の知識やアイデアが集まってきますので、単にセミナーに参加して話を聞くだけよりも、参加者の満足度は非常に高いものになります。
管
それはやはり「リアル」なところに意味があるのでしょうか? ネット上のアンケートとかではダメなのですか。
吉沢
対面じゃないと本音を出してもらえないんですよね。誰しも、ネット上だとステレオタイプな意見に終始しがちです。汎用的な大きいテーマしか出てきませんし。
我々が知りたいのは、刺さるコンテンツをつくるために「個人的に何が気になっているのか」「なぜそのテーマが気になっているのか」という、深いなので……やはりリアルじゃないと。
管
なるほど。お二人も議論に参加されるのですか?
吉沢
もちろんです。議論に参加するからこそ、後でアンケート結果を見たときに、共通するコアな課題が見えてくるんです。
三石
コアな課題からテーマ記事を1本つくり、さらに付随した関連性の高い記事を数本ずつ公開します。
こうすることで、サイト内をスムーズに遷移してもらえますし、リピーターにも来てもらいやすくなります。関連記事については、「社外編集長」と呼んでいる外部に所属されている方にお願いしています。
イベントに参加された方の中で、「このテーマについて書きたい」と申し出ていただいた方に場を提供するイメージです。
報酬はお支払いしませんが、編集のサポートや拡散のお手伝いは全力でさせていただきます。関連記事でも1記事あたり6000UUくらいはあるので、メインのテーマ記事の1/2〜1/3くらいの集客力はあるんですよ。
管
イベントの参加者はすべて招待制ということですが、どのように集めていらっしゃるのですか?
吉沢
ありとあらゆる人との繋がり、縁を駆使して超一流の方を集めています。大企業の取締役や大手外資メーカーの日本代表、ベンチャーの社長さんや若手の学生など、議論が活性化するように幅を設計しています。
三石
かれこれ10回ほどイベントを開いているので、実際に参加された方が友人を誘っていただいたりもして、自然と広がっている感じですね。
リピーターはだいたい30〜40%ほどです。記事の中にコメントインする形で参加者の生の声を入れて、自分たちでつくっているというコミュニティ感を演出するように工夫しています。
我々はあくまでも場を編集しているだけ。インテリジェンスのDODAから届けるメッセージというのではなく、「みんなで考えた結果」をお届けしたい。だからこそ、一つの記事に対して、これだけのマンパワーをかけているんです。
DODAがオウンドメディアに賭ける理由
管
これだけのマンパワーをかけるとなると、相当なコストがかかると思うのですが、費用対効果や目標設定については、どのように考えていますか?
三石
第一の目的はDODAのブランド認知なので、「認知・ブランド費」の中でオウンドメディア費用として1年分予算を確保しています。すでに「キャリアコンパス」というオウンドメディアがあったので、そのコンバージョンレートを参考にしながら、メディア全体のUUで設定しています。
ここさえ下回らなかったら赤にはならないし、ソーシャルで広がっているんだから、事業貢献度としてマイナスにはならないでしょという感じで、ギリギリのP/Lを引いています。
管
UUで目標設定していらっしゃるのですね。
三石
そうですね。やはり認知を目的にするので、どれだけ人が来たかというのが最重要指標になっています。
もう一つ「どれだけソーシャルシグナル数を稼いで、面をとってきているのか」を測るために、新たな指標を設計しているところです。
管
現状はどこからの流入が多いのでしょうか?
吉沢
4割がFacebookです。去年、サイトの公開より半年以上前に、実験的に公開した原稿2本を検証したのですが、その際に良いコメントとともに広がったのがFacebookだったんです。
NewsPicksで1位になったりもしたんですけど。X(Twitter)とはてなブックマークは表面的なコメントが多い傾向にあり、「中身はあまり読まれていないな……」という感じでした。
拡散されても、正しく伝わっていなかったら意味がないと思っているので、SNSの中でも良いコメントをしてくれるFacebookに高いプライオリティをおいています。
管
ワールドカフェで話し合うテーマは、どのように決めているのですか?
吉沢
そこに一番パワーを使っているんですけど、チーム内で仮説を立てながら、候補となるホットな話題を裏付けになるデータなどと一緒に集めて議論しています。
管
チーム体制というのは?
三石
インテリジェンスは、ほぼ僕だけですね。吉沢さん以外には、シンガポールにいる編集担当の人。
まったく違う観点が欲しいので、Skypeで打ち合わせや取材を行っているんですよ。
管
それはすごいですね。ここまで大規模にオウンドメディアをやるには、社内調整が大変そうですが、そのあたりはスムーズにいきましたか?
三石
我々のDODAは、業界内で2番手、3番手のサービスなので普通に戦っていたらやっていけないんです。
だから、とにかく思い切って仕掛けていこうとして、僕がお金を預かっている背景があります。それに、僕自身がマーケティング部門の直下にいるので、上長の理解を得られているところが大きいですね。
上長は結果を出していて役員からの信頼も厚いので、簡易な決済フローで済むという。我々の本気度の表れとして、都内全域で「“未来を変える”プロジェクト」の電車の中吊り広告も出しました。
管
オウンドメディアの中吊りは前代未聞じゃないですか。そのほかにもプロモーションに予算を割いている部分はありますか?
三石
いえ、基本的にはコンテンツをリリースした際にFacebook広告を少し出しているだけです。
広告を打つのであれば、自社サイトに直接誘導した方が事業貢献になりますからね。Facebookは最初に広告を出さないとタイムラインに流れないので、これまで見ていただいた方に確実に届くように、最低限の露出をかけている感じです。
とにかく良いコンテンツを企画してつくり上げるところに投資をしています。
吉沢
「コンテンツが自走する」と我々は言っているんですけど、いったんFacebookでシェアされ始めると、放っておいても勝手に誘爆して、じわじわ伸びていくんですよ。
3000いいね!いった記事も、1週間かけてずーっと右肩上がりで伸び続けた結果なんです。
管
Facebookに投稿する時間は意識されていますか?
三石
8割近くがモバイルからのアクセスで、朝7時と昼12時に伸びます。なので朝7時までには拡散され始めるように予約投稿で設定していることから、朝6時台が勝負ですね。
朝を制すれば昼には、はてブのホットエントリに入っているので、PCからのアクセスが伸びるという好循環ができあがります。
管
素晴らしいですね。サイトには会員機能が付いていますが、こちらはどのように活用されているのですか?
三石
ここはまだ機能していないのですが、将来的に我々DODAの中でライフタイムバリューのようなサイクルができないかなという構想を立てています。
転職が決まると退会されたり、メール配信を停止されたりする方がたくさんいらっしゃるのですが、本来は転職が終わると新たなキャリアがスタートし、潜在層に戻るだけなはずなんです。
会員登録しておいていただければ、キャリアアップに関する最新の情報をキャッチし続けられるようなコミュニティをつくっていけたらいいなと思っています。
菅
なるほど。では最後に、これからの課題や展望についてお聞かせいただけますか?
三石
イベントに参加していただいた方の声としては、「招待制を崩さないでほしい」という要望が根強いのですが、今後コミュニティを広げていくにあたって、公募も取り入れるべきかジレンマを抱えています。
あとは、事業として取り組む以上、認知拡大を図らないといけないのですが、我々のコンテンツは一つひとつの内容が濃いので、あまり更新頻度を高めても、おなかいっぱいになってしまうんじゃないかという懸念もあります。
せっかく見ていただいた方に「なんだこれ、ハズレじゃん」とがっかりされることは極力さけたい。そうしたことも含め、今後も適切なコミュニケーションを模索していきたいと思っています。
管
本日は、貴重なお話をありがとうございました。
この記事を書いた人:ソーシャルメディアラボ編集部