ファーストペンギンのチャンス。村上氏が語る、LinkedInの現在地と企業が活用すべき理由

2018/07/27


LinkedInはグローバルで5億人以上のユーザーをもつ、世界最大級のビジネスSNS。海外、特にアメリカでは転職活動だけではなく、ビジネスのあらゆる場面で名刺代わりに利用されるほど定着しています。

一方、日本国内に目を向けると日本版サービスがリリースされた2011年から登録者数がなかなか伸びず、ビジネスSNSとしての活用は限定的という状態でした。そのような状況の中、2017年11月に前ヤフーCMO、村上臣氏がLinkedInのカントリーマネージャーに就任。

それから約8ヶ月、日本市場におけるLinkedInの現在地はどこにあるのでしょうか。そして企業は今後、どのようにLinkedInを活用していくべきなのでしょうか。

今回はLinkedInジャパン代表、村上臣氏にお話をお伺いしました。

Interview / ソーシャルメディアラボ編集部 大久保亮佑(@03rysk
Text & Photo /  ソーシャルメディアラボ編集部 大木一真(@whiskyjunky

    ■目次

  1. プロフィール
  2. 村上氏の代表就任から約8ヶ月。LinkedInの現在地
  3. 未開拓の日本市場と「エコノミックグラフ」としてのLinkedIn
  4. 企業はLinkedInを積極的に活用すべき理由とそのメリット
  5. ファーストペンギンになれるチャンス。村上氏のメッセージ

1.プロフィール

リンクトイン・ジャパン株式会社代表:村上臣 氏

2. 代表就任から約8ヶ月。LinkedInの現在地

大久保:さっそくですが、LinkedInの現状を教えてください。

村上臣氏(以下、敬称略):全世界のユーザー数で5.6億人以上、日本国内では200万人まで伸びてきました。アメリカはおかげさまでほぼ100%のシェアを占めています。特にアジア太平洋が一番成長しているエリアでして、現在1.4億人のユーザーがいます。グローバル戦略として、日本を含むこのアジア太平洋でのユーザーの拡大を見込んで投資をしているところです。

大久保:代表に就任されてからのこの約8ヶ月はいかがでしたか。

村上:僕自身、外資の企業で働くことが初めてで、まずは働き方に慣れるところからのスタートでした。僕がLinkedInにきて初めて思ったこと、それは日本語化のレベルが非常に低かった、ということです。

日本語表記ではあるけど、細かい言葉の使い方がいわゆるネイティブの日本人にとってちょっと違和感がありました。いかにも海外で作られたサービスという感じが拭えなかったので、そうした細かい部分や他の技術的な課題などをこの半年間、水面下で一から見直しました。

基本的なグローバル企業の場合、グローバルで1つのプロダクトを立ち上げ、国ごとに多言語化の翻訳対応を行い、それでローカライゼーション完了、という流れです。ただ日本の場合、ユーザーが求めているローカライゼーションのレベルが高く、1つのプラットフォームでグローバルのユーザーすべてに対応する、という思想で作られているプロダクトは日本で苦戦します。LinkedInもそうでした。

そこで僕の入社に合わせて、本社開発チームの中に日本専用の開発チームを作りました。これはかなり珍しいことで、それだけLinkedInが日本市場に期待していることの表れです。

3.未開拓の日本市場と「エコノミックグラフ」としてのLinkedIn

大久保:LinkedInが日本市場に期待している、これにはどのような背景があるのでしょうか。

村上: GDP世界第3位ですからね。これだけでも十分な理由だと思います。
LinkedInの場合は、労働力市場自体の大きさがビジネスの大きさになりますので、まだまだ日本は大きい市場です。そしてまだリーチできている部分が少ない。基本的には伸び代しかないという見方になります。

大久保:LinkedInは転職目的で利用される、という認識が日本ではあると思います。今後よりLinkedInを普及させていくために、どのような使い方を広めていく予定ですか。

村上:「人脈」、英語だとネットワーキングがマーケティングにおける1つのメッセージになってきます。前提として、日本で使われてきた「人脈」とグローバルで使われてきた「ネットワーキング」、この2つの意味はだいぶ違います。

日本の「人脈」は、まず飲んで仲良くなって、そして水面下で手を握るような関係のイメージです。会社のトップ同士の付き合いで決まった案件が下に落ちてきて、現場同士がミーティングを何回もして、そしてまた上に戻ってきて、トップ同士が儀式的なセレモニーとして調印式を行う。そのようなやり方だと今のビジネスのスピードに合わないんです。

グローバルでの「ネットワーキング」はビジネスチャンスを求めてお互い常に対等なWin-Winのリレーションシップです。「こんなアイデアがあります」と誰かが提案をして、「それいいね」となれば人が集まってくる。会社に縛られず、各レイヤーで決められることはそのレイヤーで決めた方がスピードは上がります。

会社主語から人主語へ。会社対会社から、人対人にどんどん移っていくことで「生産性」は上がっていきます。そうした「生産性を上げるためのツール」としてLinkedInを使ってほしいです。

LinkedInはMicrosoftグループに2年前から入っていますが、それはお互い生産性にすごくこだわっている会社同士だからです。Microsoftとの連携もあり、働く上で必要になるすべてのプラットフォームのエコシステムをLinkedInは持っており、われわれはそれを「エコノミックグラフ」と呼んでいます。

4. 企業はLinkedInを積極的に活用すべき理由とそのメリット

大久保:これから企業がLinkedInをどのように活用していけばよいのでしょうか。

村上:マーケティング軸でいうと、自社プロダクトの発信をどんどんニュースフィードへ流し、フォロワーを増やしていく方法。これはFacebookと似たやり方です。LinkedInはコンテンツをしっかり読むユーザーが多いので、カジュアルな記事より、ストーリーのあるコンテンツがより求められています。

また、PRやマーケティング担当が作成するようなテンプレートではなく、社員個人の感情を伴った「パーソナルストーリー」は積極的に発信してください。そうしたコンテンツは真実味があり、非常にパワフルで、どんどんインフルエンスしていきます。

そうするとどうなるか。他社で何かソリューションが必要になった場合、会社ではなく、その人へ直接相談がくるようになります。これが「ネットワーキング」のいいところであり、BtoBマーケティングでソーシャルネットワークを使うメリットです。

今後は従来の営業組織だけではカバーできなかった領域を攻めるため、ストーリーを語ること、つまりソーシャルセリングが上手な社内のエバンジェリストを集め、ソーシャル専門部隊を組織し、各種メディアに向けた発信をしていく戦略が必要になります。そこから役に立つTipsや自社製品の魅力を熱く語っていく。するとその熱がどんどん連鎖して、結果的に気付いたら商品が売れている、と。

大久保:LinkedInでのデータ活用についてもまだあまり知られていませんよね。

村上:いわゆるアナリティクスですね。LinkedIn Insight タグをWebサイトに埋めて、ブログポストをリンクすると閲覧数や読者層がはっきり出てきます。個人のポストでもつながっている人でプロフィールを公開している人はログとして残ります。しかもリージョン(地域)別、インダストリー別でも数字で見ることができます。

大久保:そこからビジネスの関係性が見えてくるのは面白いですよね。

村上:自分のネットワークはどうなっているのか、自分で知ることができるし、投稿するネタによって反応が全然違うわけです。そこから次は何を書くべきか、どういう営業コンテンツにしていこうか、次のアクションを戦略的に考えることができます。

大久保:コンテンツや営業以外にもデータ活用の事例はありますか。

村上:人事です。我々の言語では「タレントソリューション」に関わる部分ですね。LinkedIn経由で自分から入社してもらえれば、採用コスト的にお得です。それだけでなく、転職した人と転職してきた人、つまりデータとして人のInとOutを追うことが可能です。
例えば、うちの会社はA社から転職してくる人が多い、逆にB社にすごく転職してしまっている、ということがファクトとして可視化される。すると自分たちの組織の強さと弱さの振り返りができ、そこから社内の福利厚生や社内教育をこうしようなどの具体的なアクションにつなげることができます。

5. ファーストペンギンになれるチャンス。村上氏のメッセージ

大久保:こうしたLinkedInの活用ができている日本の企業はまだ少ないですよね。

村上:まだ外資系の日本企業が多いです。逆にいうと、いち早く取り入れてLinkedInでノウハウをためると一足先に抜けることができます。今はボーナスタイミングで、ファーストペンギンになれるチャンスがあります。

まだまだLinkedInは「転職」のイメージが強すぎて、ユーザーインタビューをしていても、LinkedInを利用していることを上司に知られたくないという意見はよく聞きます。LinkedInを使っていようがいまいが、転職する人は転職します。

それよりも企業にとって従業員がLinkedInを使うメリットの方が大きいと考えているので、ぜひどんどん活用してほしいです。そしてソーシャルネットワークの持つリズム感を会社の中へきっちりと入れていく。従業員全員がこのリズムを会得していないと、この先ビジネスのリズムにどんどん乗り遅れていく、戦いにすらならない、そう考えています。

この記事を書いた人:ソーシャルメディアラボ編集部

企業のWeb担当者様が積極的にSNSをビジネス活用していけるよう、ソーシャルメディア関連の「最新ニュース」「運用ノウハウ」「事例・データ」の情報を素早くキャッチしてお届けします。