SNSマーケはユーザー行動分析にあり。企業のマーケターが持つべき「メディア」の捉え方
2018/11/13
ソーシャルメディアラボではFacebookやX(Twitter)、Instagram、Pinterestなど様々なSNSの情報を発信してきました。なかでも、「ソーシャルメディアマーケティング」や「SNSマーケティング」といった概念は明確な定義がなく、企業のマーケターにとって最適解が見つかりづらい領域だといえます。
今回、企業のソーシャル活用を支援しているjigen_1さん(@kloutter)に、ご自身が実践するソーシャルメディアマーケティングについて、うかがってきました。
Interview / ソーシャルメディアラボ元編集長 大久保亮佑(@03rysk)
Text & Photo / ソーシャルメディアラボ編集長 小東真人(@gxsoc_kohigashi)
- ■目次
- 一般的な「ソーシャルメディアマーケティング」の考え方
- 現実的な見方でソーシャル運用のKPIを考える
- ソーシャルメディア=パーソナルメディアの集合体と捉える
- 商品やサービスが良くなければバズらない
一般的な「ソーシャルメディアマーケティング」の考え方
jigen_1さん:そもそも「ソーシャルメディア」って世の中にどう捉えられていると思う?
大久保:一般的にはユーザー同士が自由に参加できてインタラクティブに情報をやり取りする空間を指しますね。
jigen_1さん:では企業の担当者が解釈する「ソーシャルメディアマーケティング」は?
大久保:企業が発信者、消費者が受け手となってやり取りする。「企業」が主語になりがちです。
jigen_1さん:そう。ソーシャルメディアは本来発信者が「企業」である決まりはないのに、「企業のツイートを消費者が受け取る」という構図のフォローフォロワー比率が多いよね。
たしかに大久保さんの言う通り、一見すると「企業」と「お客さん」というインタラクティブの関係。でも、企業のマーケターはリーチを増やすためにフォロワーを増やしましょうとなりがちじゃない?
正しい正しくないという論争をするつもりないけど、フォローを増やすってところがフォーカスされ過ぎて、結果フォロー&リツイートキャンペーンに落ち着くみたいな。
X(Twitter)広告に関してだけ言えば、X(Twitter)はプレゼントキャンペーンプラットホームみたいになっちゃっている。
なかにはスタバみたいに、企業アカウントがユーザーをかなり相互フォローに近い垢もあるよ。でも、一般的な企業だったら30フォロー、50,000フォロワーとか実質的にはインタラクティブじゃないよね、だって企業アカウント側は30人分しか見てないから。「自分の話を聞け」という一方的なメッセージになってしまう。
たとえば、企業は有名人をフォローするんだけど、市井の人はフォローしませんみたいな。これはどうインタラクティブなの?
大久保:たしかに、実際インタラクティブではないですね。
jigen_1さん:「フォロー&リツイートキャンペーン」の費用対効果が高いならば何も否定しないよ。仮に広告費に500万円を使うんだったら、違う500万円の使い方も検討すること。
以前別の記事(「X(Twitter)マーケティングを代表とするSNSマーケティングはただの手段。適しているか否か、まずは3枚におろしてから考えないと」)でも伝えたけど、UGCが出て指名検索が出る企業アカウントなら、フォロワーを丁寧に集めればいい。指名検索もUGCも出ないなら、フォロー&リツイートキャンペーンをやって拡散していくことは決して悪いわけではない。
現実的な見方でソーシャル運用のKPIを考える
jigen_1さん:冒頭でソーシャルメディアは「インタラクティブ」なメディアって言っていたけど、現実的には全くインタラクティブではないでしょう?
大久保:そうですね。
jigen_1さん:じゃあ大久保さんが言った「インタラクティブなメディア」が間違いなのか?と言うと、実は正解なわけ。私が指摘しているのは、ソーシャルメディアをマスメディアのように大から小へ一方的に使用するのは違うのでは?と言っているだけ。そもそも30フォロー30フォロワーのような市井の人々は、友達や趣味の繋がりで双方向にやりとりを行っているわけですから。
その観点から、私はUGCを増やしましょうよと言っているのです。たとえば、私のクライアントで月間8,000件のUGCが出るところがあります。8,000の平均フォロワー数が100人とすると、80万件のツイートに名前入りで見て貰える可能性がある。それで、30,000フォロワーの企業アカウントを運用する理由はあるの?
大久保:なるほど。それだけユーザー投稿があるのであれば、リーチの観点からいうと企業アカウントを運用する必然性はないですよね。
jigen_1さん:そう。アカウント運用も広告やキャンペーン施策も費用対効果を検証しなくちゃいけない。もし80万人のフォロワーを集めるとしたらいくらかかるの?と。80万件つぶやかれているんだったら人件費を使ってソーシャル運用する必要があるのかって話になるよね。
ソーシャルメディア=パーソナルメディアの集合体と捉える
jigen_1さん:企業のマーケターがユーザーにUGCを上げてもらうためにどうすれば良いか。それを説明するために、まずソーシャルメディアを私なりに解釈していこう。
「ソーシャル」は社会を指すよね。また、「ソーシャル」はパーソナルの集合体だよね。言い換えると、社会=個人の集まり。それに「メディア」がプラスされただけ。
つまりソーシャルメディアはパーソナルメディアの集合体なんですよ。パーソナルメディアっていうのは、たとえば私のX(Twitter)アカウントやInstagramアカウント。つまり意識しなければいけないのは、私たち一般人それぞれのパーソナルメディアなのです。
たとえば雑誌が1,000紙あるとするよね。テレビは10チャンネルくらいかな。ラジオはメジャーなところで5,6局とするじゃない。一方で、ソーシャルメディアユーザーをパーソナルな「メディア」として捉えたら、その数は7,000 万人くらい。桁数が全く違うよね。かつ雑誌やテレビは一方的なメディアあってちっともインタラクティブじゃないし、載せてもらうのが限りなく難しい。
だから私の言うソーシャルメディアマーケティングは「うちのことを載せて」といって、7,000万分の1メディアの一つひとつに広報するということ。広報して、載せてもらった結果が前述の月8,000人で、各メディアは一つ当たり100人の読者がいるみたいな感じ。
さっき企業のソーシャル運用の必然性について言ったけど、やっぱり必要なんです。ソーシャルメディアを使っている人が7,000万にいるとすると、多くの人にUGCを発信して頂けるように促進するために運用する。さっき例にあげた私のクライアントなら8,000人よりもっと取り上げてくれるように努力しないといけない。
もっと言うと、ソーシャルメディアマーケティングというのはそれぞれのメディア、X(Twitter)だったら4,500万人、Facebookだったら2,800万人、Instagramだったら2,900万人いるというなかで、どれにメディアとして掲載してもらえるか(=一般ユーザーに取り上げてもらえるか)なわけ。
大久保:なるほど、分かりやすい。
jigen_1さん:UGCとして発信してもらったり、繋がりを促進してそのメディアから通したものがリツイートしたりして伝わっていくのが「SNS マーケティング」。
これは別に捉えていて、ソーシャルメディアは一つひとつのパーソナルメディアの集まりと考えると、パーソナルメディアに広報活動するのがソーシャルメディアマーケティングの仕事で、そこから拡散させるためにはユーザー行動を分析してより多くの人に拡散されるようにするのがSNSマーケティングの仕事なの。だからソーシャルメディアマーケとSNSマーケは、私の中では違う。
SNSマーケティングとはユーザー行動の分析
大久保:ソーシャルメディアマーケティングとはパーソナルメディアに取り上げてもらうための広報活動。SNSマーケティングとはユーザー同士の繋がりを分析してコンテンツを拡散してもらうための諸活動。こういう区別ですね。
jigen_1さん:そう。ソーシャルメディアマーケティングがあって、次にSNSマーケティングがある。もう少し付け加えると、ソーシャルメディアマーケティングにはパーソナルメディアに好まれるコンテンツが重要で、SNSマーケティングはそれを拡散させるためにユーザー行動の分析が重要になる。だからコンテンツが1番、ユーザー行動が2番。たとえばブログを読んでいて、面白いか面白くないかだと、面白い方が良いに決まっている。「Content is King」だよね。
私がやっている仕事はユーザー行動を分析してより多くの人に拡散されるようにする、このSNSマーケティングなの。だから私は僅かでもUGCが上がっている企業を支援することが多い。
大久保:そういう風に分けて考えているんですね。
jigen_1さん:コンテンツがキングだとして、ユーザー分析がクイーンだとしたら後者から攻める人が少ないから、そのポジションを取っているだけ。さっきの考え方でいくと、ソーシャルメディアマーケとSNSマーケの双方に需要があるのは明らかなのです。
具体的には、Pinterestではフォロワーは関係ないからAPIを使ってピン数を出すと露出が上がるんだよね。だから分散型メディアをやるときはPinterestの攻略。一方、X(Twitter)やInstagramはSNSマーケとしての使い方をどうするのと言ったとき、ユーザーがどうUGCを発信してくれるかが重要だよね。
だからこうした考え方を抜きに「3万フォロワー集めました」と言っても、何の意味があるの?と言いたい。「私だったらやらない方がいいです」と言うよ。私は以前、デイリーでピーク時に約2万件のUGCがある会社に呼ばれたんだけど、「お断りしたい」と言ったんだ。というのも私がやるとUGCが10,000、15,000に減る可能性があるから。
ピークで2万も出ていて、月間で200万もあった。たとえるなら、それらのユーザーは子ども達が砂場で砂遊びを楽しんでいるようなものでしょ、大人が入ったらシラーっとするよね。それは放っておくべき。でもマーケターは自分の手柄にしたいから放っておけないけどね。
商品やサービスが良くなければバズらない
大久保:既にUGCが出ているところをお客さんにするという話も、既にコンテンツがあるところにユーザー行動をつければ、よりレバレッジが効くということですよね。
jigen_1さん:もう1つ、ここでいう最大のコンテンツというのは、ブログ記事やニュース記事、HPのことじゃない。企業のコンテンツは「商品とサービス」だよね。
それが良ければ何も書けと強要することなんてない。美味しいんだったら「美味しい」と口コミされる。だからソーシャルメディアマーケ、SNSマーケというのは、前提としてUGCが僅かでも出てるところでやるのが最も成功するんだよ。
バズの仕組みを作ったところで、やっぱり商品が大事でしょう。美味しくないものに私のバズの仕組みを入れたことでどうしようもないからね。つまりうまく活用すれば広告費が減ると言いたいたけで、UGCは無料でしょ?そっちを増やす方法を考えましょうよ。広告費はマーケターのためにあるわけじゃないんだから。
中小企業は広告費が少ないから、いい物を作っても伝わらないのは残念だよね。いい物を作っているんだったら、ソーシャルメディアに載せさえすれば低コストで伝わっていく、そんなことのお手伝いをしたい。だからいい物を作っているならソーシャルメディアをやりましょうと。いい物が他のデジタルマーケに負けて買われないとかね、そこを何とかしたい。だけど現実は月1億円出せるところには勝てない。しょうがないよね、手も足も出ないのは事実だけど。
たとえば8万フォロワーであっても、80万フォロワーのライバルと総リーチでは均衡が保てるかもしれない。まあ1億円かけられると負けるけどね。それで売上があがり、客数も増えれば費用対効果が良いわけだし充分じゃない?
いい物やサービスを作ることに専念できる環境を作りたいよね、というのが私の理想。だから、こうした取材では「SNS マーケティングはユーザーにパスを通す人」なんて例を出しながら、ユーザー行動分析の話をしているんです。
大久保:ソーシャルメディアマーケティングとSNSマーケティングの違いについて良くわかりました。
Jigen_1さん:では最後に壮大にはしごを外したいと思うんだけど。そもそもソーシャルメディアマーケティングとかSNSマーケティングというものは無いw そこにあるのは「マーケティング」の一文字のみ。
それを各メディアが定義しているものを解釈し直して、伝えるのが私や大久保さんの仕事だね。解釈をし直さないと打ち手が伝わらないから、あえてこのように分けていると伝えて終わりとします。ありがとうございました。
大久保:ありがとうございました。
この記事を書いた人:小東真人
17年ガイアックス入社のデジタルネイティブ世代。靴磨きが大好きで、休日はInstagramで関連アカウントばかり見ている。