デジタル時代の情報戦略とは? X(Twitter)×アプリのデータ分析で見えた、“いま”エンドユーザーの実態を把握しなければいけない理由
2019/06/21
デジタルコンテンツがWeb・SNS・ニュース情報アプリなどさまざまな場所で見られるようになり、ユーザーの情報接触経路が日々複雑化するなか、効果的なマーケティング施策のためのメディア戦略にお悩みの方も多いのではないでしょうか。
データ取引事業を手がける株式会社日本データ取引所、アプリとデータをテーマに事業を展開するフラー株式会社は、X(Twitter)投稿データとスマートフォンのアプリデータを読み解く『デジタルメディアレポート2018』を共同でリリースしています。
3年前からスタートした『デジタルメディアレポート』ですが、AbemaTVをはじめとし各メディアでも取り上げられるなど注目を集めています。今回は、スマートフォン時代にかかせないデータ活用マーケティングについて、株式会社日本データ取引所の上島邦彦 氏、フラー株式会社の服部卓史 氏のお二方にお話を伺いました。
Interview/ 株式会社オズマピーアール/カイテンワークス 菊田桃由
※編集部注:本記事は株式会社オズマピーアール様より寄稿いただいてます※
- ■目次
- プロフィール
- X(Twitter) × アプリデータの掛け合わせで分かるエンドユーザーの実態
- 肌感覚よりデータを。1年強でメインユーザーは女子高生からおじさんに
- X(Twitter)は議論の「広場」、アプリは個人の興味を深掘りする「部屋」
- 情報接触のプラットフォーム毎にユーザー層の反応は変わる
- 「囲い」か「議論喚起」か、アプリとX(Twitter)で変わるメディア
- 情報接触のプラットフォーム毎にユーザー層の反応は変わる
- まとめ:届けたいユーザーはいまどこにいるのか?
1. プロフィール
株式会社日本データ取引所 事業企画部 部長:上島邦彦 氏(写真右)
フラー株式会社 ソーシャルメディアマーケター:服部卓史 氏(写真左)
2. X(Twitter) × アプリデータの掛け合わせで分かるエンドユーザーの実態
菊田:X(Twitter)投稿データとスマホアプリデータを掛け合わせて読み解く『デジタルメディアレポート2018』ですが、なぜX(Twitter)とアプリという2軸でのデータ分析に取り組まれたのでしょうか?
上島氏(以下、敬称略):デジタルメディアの情報流通構造は、年を追うごとに複雑化しています。ユーザーはメディアのサイト上に直接情報を見に来るだけでなく、X(Twitter)のタイムライン上でニュースに触れたり、LINEでニュースを見たり、Instagramでハッシュタグ検索をするなど、1次情報源を併用することが珍しくありません。
一方で、「情報が多すぎることの自衛策として、接触する情報ジャンルや情報源の範囲が狭まる」との指摘もなされています。NHK放送文化研究所によると、20代女性の92%はSNSを毎日利用していますが、60代男性は20%ほど。
また20代男女の4割が「自分が知りたいことだけ知っておけばいい」と答えるなど、情報消費の「偏り」も進んでいるのです。(出所:『情報過多時代の人々のメディア選択』)
※作成:株式会社オズマピーアール
上島:そういった現状において、SNSとニュース情報アプリの双方で、どういった情報消費がされているのか、エンドユーザーの実態を把握することは非常に重要です。
そこで生活者による情報消費の実態を、肌感覚だけではなくデータをもとに捉えることを目的としつつ、企業のメディア戦略にも役立てるような分析に取り組みました。
服部氏(以下、敬称略):特に、X(Twitter)投稿データはオープンな状況でのニュースやコンテンツへの言及、アプリデータはクローズドなアプリの中での情報消費と言った具合に、ユーザー行動の性質が違う2つのデータを横並びで見たことがポイントですね。効果的なメディア戦略立案のファクトとなるデータをつくることができました。
菊田:2つのデータを掛け合わせることで新たに見えてきたものはなんでしょうか。
上島:フラー社さんは、どのスマホアプリが誰に・どのように利用されているかを詳細に分析できるデータを収集されています。
今回、そのデータとX(Twitter)投稿データを比較したことで、ポピュラーなニュース情報アプリの利用状況だけでなく、コスメ、コミック、ペットなど、テーマごとにしっかりとファンがついているメディアを数多く発掘できました。海外ニュースメディアが堅調に利用者を増やしていることも驚きでした。
服部:データを掛け合わせて見るとコンテンツの性質ごとにユーザーの情報接触場所や反応の仕方がまったく違うことが見えてきて、非常に興味深かったです。
X(Twitter)で話題になりやすいコンテンツと、アプリのユーザーに響くコンテンツの差やユーザーの性質の違いがよく分かりました。2つのデータを並べてみるだけでも、肌感覚の判断ではなく複数データをもとにファクトベースで戦略立てをする重要性がはっきりと見えてきたと思います。
3. 肌感覚よりデータを。1年強でメインユーザーは女子高生からおじさんに
菊田:肌感覚の判断とデータベースで実際を捉えてみて差がでたという、分かりやすい事例があれば教えてください。
服部:もっとも驚いたのはTikTokです。若い女性がターゲットで、ユーザーとしては10代~20代が多いイメージですが、データを見ると、じつはメインアクティブユーザー層は40代男性なんです。(2019.03 時点)
※データ元: App Ape(国内数万台のAndroid端末を分析) アクティブ数はApp Ape 推定による(性年代比:そのアプリの対象期間における所持ユーザーのうち、男女×年代でみたときの各世代の割合)
服部:アプリローンチ初期(2017.12 時点)のデータは、肌感覚通り10代の利用率が圧倒的に高いですが、たった1年3ヶ月でメインのユーザー層が入れ替わりました。
初めは感度の高い若い世代を中心として使われはじめたものの、企業側もユーザー増加に合わせTVCMを打つなど幅広く動きはじめたことで、かなりのスピードで一般化が進んでいったと推測されます。世の中の印象としては、「TikTokは若い世代に人気のアプリ」と思っている人もまだまだ多いんじゃないでしょうか。
上島:1年強でここまで変化するのは驚きですね。TikTokといえば、お子さんの動画をあげる方がでてきたり、使われ方も変化していますよね。少し脱線しますけどたぶん15秒って、ちょっとしたビジネストークなんかもできる長さだと思うんです。
菊田:具体的にはどういうことでしょうか?
上島:現在のメインユーザーである40代男性は、いまは「見る」専門の人が多いとは思いますけど、そういう人がいずれ発信する側に回る可能性は十分にあると思うんです。TikTokでは学びコンテンツを特集した「#Tiktok教室」のように、Tips共有コミュニティもすでにできてきています。
もしここに、ビジネスマン向けのチャンネルなどができると、40~50代男性がメインで活用する新たな情報のプラットフォームになる可能性も有り得るのではないでしょうか。肌感覚だけなら、そんなこと考えもしないと思いますが……(笑)
服部:なかなかおもしろい発想ですね(笑)自分の肌感覚とデータが合っているところを確定的に狙って商談にしていくという方向性もありますが、イメージとデータの差異という新たな発見があれば、今後打つべき戦略の示唆になりますよね。
ただ影響力の大きいところを狙っていっても、結局戦略としては横並びになってしまうので、ユーザー行動の変化を最新のデータから捉えることで、もう一歩踏み込んだ戦略の差別化をいちはやく図るべきですね。
4. X(Twitter)は議論の「広場」、アプリは個人の興味を深掘りする「部屋」
菊田:ところで、X(Twitter)とアプリでは、人気のコンテンツやユーザーの性質はどのように違うのでしょうか?
上島:X(Twitter)で投稿が多かった記事にはおもに2つの傾向がありました。1つ目は「◯◯診断」や「◯◯あるある」など、多くの人にとって「共感」しやすいコンテンツです。2つ目は政治ニュースや議論を呼ぶ動画や物議をかもすトラブルなど、「煽り」やすいコンテンツですね。一方で、調査報道や、テーマに特化した深い情報は話題になりにくいです。
服部:逆にアプリ市場では具体的なペルソナを設定してコスメ、ペット、コミックなどのテーマとターゲットをしぼったアプリがどんどんユーザーを伸ばしています。パーソナライズ化されて、個人の興味に最適化された情報がしっかりとユーザーに届くようになっているアプリが特に成長していますね。
上島:X(Twitter)は多くの人が意見を交わす、開かれた「広場」のような使われ方。逆にアプリは自分の興味を深掘りする「部屋」、といった見立てができるのではないでしょうか。
5. 情報接触のプラットフォーム毎にユーザー層の反応は変わる
上島:ユーザー行動の違いをさらに深掘りすると、同じメディアのコンテンツでも、X(Twitter)で話題にしてくれるユーザー層と、アプリで読んでくれるユーザー層が変わってくるのもポイントです。これは、プラットフォームの性質との相性が関係していると思われます。
たとえば、あるニュースサイトの「自社サイトの訪問者」はどの年代も約15%~25%で、幅広く支持されています。ですが、そのニュースサイトの記事を「X(Twitter)で話題にした」のは10-20代が約35%と、若年層にやや構成が偏っていました。さらに「スマホアプリの利用者」は50代以上が約82%と大きく異なりました。
服部:この違いは、データを比較しなければ分からなかったところですね。プラットフォームごとに反応や興味をもってくれるユーザーの層まで変わるとなれば、マーケティング戦略も変えなければならないですよね。
6. 「囲い」か「議論喚起」か、アプリとX(Twitter)で変わるメディア
菊田:人気のコンテンツも違えばユーザーの性質、ユーザー層も違うX(Twitter)とアプリでは、やはりメディア側も戦略を変えてきているのでしょうか?
上島:情報接触経路が複雑化しているので、オーガニックな検索流入だけで記事PVを稼ぐのは難しいのではないでしょうか。SNSからの流入を得るために、人気記事は公式アカウントで繰り返し発信するなど、コンテンツの再利用に積極的に取り組むメディアもあります。
特にファッション系に多いですね。ただ、全体としては、SNS上の露出を増やすだけではなく、コンテンツをよりじっくりと読んでくれるアプリに注力する動きが見られます。
服部:アプリをインストールしてもらうのは1つのハードルなので、そこを超えてくれるユーザーはコアファン化しやすいんですよね。ユーザーを囲いたい、という意味でもやはりアプリ戦略に力を入れているメディアは多いと思います。
上島:特に、新聞系メディアは、定期購読してくれる有料会員を増やすために、スマホアプリへの移行を促していますね。
菊田:バイラルメディアなど、X(Twitter)などでの情報拡散力を強みにしているメディアも多いですが、その点はどう捉えていますか。
上島:メディアごとの情報戦略によって二極化していますね。ヘビーユーザーの定着を促したいメディアは、テーマ性に富んだ話題を集め、ユーザーの趣味が近く、お互いに共通語で対話できるコミュニティを作り込んでいます。
一方で、SNSでの情報露出・拡散に強みをもつメディアは、社会的意義のある、広く一般に届けるべき情報を扱い、世の中に問題提起する傾向を強めているようです。
SNSで攻めすぎた記事による炎上リスクを背負うのは避け、世論を喚起するニュースを真面目に伝えるメディアが増えていると感じます。
服部:PRやマーケティング施策のプランニングの上でも、プラットフォームによる響くコンテンツの違い、ユーザーの違い、メディアの戦略の違い、この3つの軸を踏まえて戦略を考えることが大事ですね。
7. データを読み逆算する、掲載確度の高い情報作り
菊田:メディアの戦略について、PRの視点で気になるところなのですが、特定のメディアの傾向をデータから把握したいときは、何か方法がありますか。
上島:簡単なテキストマイニングを行うと便利です。試しにやってみましょう。『デジタルメディアレポート2018』には、X(Twitter)で投稿されたニュース記事のランキングが収録されています。そのなかから大手ポータルサイトであるYahoo!ニュースとlivedoor NEWSの記事タイトルだけを抜き出し、頻出する単語を集計。結果を順位表にまとめてみました。
Yahoo!ニュースは、「安倍」「首相」「韓国」などの単語から、政治や外交に関するニュースが人気だと分かります。ほかにも「問題」「疑惑」「批判」なども話題で、政治・経済ジャンルのストレートニュースが注目されやすいのでしょう。
一方でlivedoor NEWSは、「発売」「発表」「限定」など、商品・サービスの節目に関連する単語が多いですね。「登場」「インタビュー」「声優」など、エンタメ・芸能系の単語も多く出現していて、よりカジュアルなニュースが話題だと分かります。
※データ元:『デジタルメディアレポート2018』より抜粋
菊田:表で並べてみると、記事の掲載傾向がまったく違うことがひと目で分かりますね。ママ向けメディアなどターゲットが絞られているメディアや、一見似ているように思えるメディア同士でも比較してみると、新たな発見がありそうです。タイアップ企画の選定などでもこの方法は使えますね。
上島:今回は記事タイトルだけを使用しましたが、工夫すれば、「ポータルサイトに転載されやすいメディアの特徴」も読み解けます。X(Twitter)はもともとポータルサイトからの情報配信が多いメディアなので、一概には言えないのですが……。
菊田:ということは、データから、ポータルサイトの傾向を読み解き、ポータルサイトに転載されやすいメディアは何か、さらにそのメディアに掲載されやすい切り口は何か……といった形で、掲載確度の高いコンテンツを逆算して設計することも可能になるんですね。
上島:そういった戦略の立て方も、1つの方法だと思います。
8. まとめ:届けたいユーザーはいまどこにいるのか?
菊田:これまでの話を踏まえて、これからのデジタル時代に大切なことはなんでしょうか。
上島:数年来、情報メディアの消費環境はオープンとクローズドの二極化に向かっていると言われています。複数の情報源からデータを集めた上でそれを一面的に解釈するのではなく、深く分析できることが理想ですね。そのためにも、その情報を届けたいユーザーがどこにいるのか? という視点を持つことが大切です。
どのメディアを見ているのか? 主要なユーザ属性は? その属性のユーザが見ているほかのメディアは? そのメディアの情報源はどこか? そのメディアは全体ではどういう立ち位置なのか?……など、できる限り多くのメディアについてデータを幅広く知っておくことは欠かせません。
服部:1年前に成功したものが1年後に成功するとはまったく限らないので、なるべく詳細で最新のデータを追っておくべきですよね。デジタルマーケティングに強い人でも、今までの成功事例がこうだったからといった肌感覚に囚われずに、一度フラットな目線でデータから実態を読み解くことを習慣にするべきだと思います。
上島:情報発信の目的を設定してから情報を届けたいユーザーが集まるメディアとその性質をデータで見極めて、それを表現に落とし込むためのファクトをさらに探していく、というやり方ですね。
服部:いまの時代はスマートフォンの中だけでも、ゲーム、SNS、動画……と可処分時間の奪い合いが起きています。色んなコンテンツがあるので、本当に競い合いが激しい。
実は敵はYoutubeかもしれないし、X(Twitter)かもしれないし、ポケモンGOかもしれない。競合と思っているところが競合とは限りません。そんな時代だからこそ持っているデータを最大限に活用して「事実」の解明を突き詰めていくべきだと思います。
菊田:お二人ともありがとうございました。今回お話を伺ってデータをもとに客観的事実を把握して、複雑化するユーザーの情報接触経路に追いついくことが、効果的なPRやマーケティング施策を見出すためには必須であると分かりました。過去の通説や事例にとらわれず、“いま”起きていることを見つめ、日々アップデートしていかなければいけませんね。
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■参考:デジタルメディアレポート2018詳細ページ(※レポートの収録内容と、全データの詳細を公開)
http://j-dex.co.jp/lp/facebook/product.html
この記事を書いた人:菊田桃由