戦略なきコンテンツマーケティングは淘汰される?【日本SPセンター取材記事】

2016/04/12

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数年前から、「コンテンツマーケティング」という言葉を聞く機会が増えてきました。しかしながら、どの企業も言葉の定義は曖昧であり、手法もそれぞれ異なることが多いです。

そこで今回は、SNSやWebサイトだけでなくカタログなど紙媒体の領域でもコンテンツマーケティングを実施し、45年以上も活躍されている株式会社 日本SPセンター様からお話しを伺いました。

text / ソーシャルメディアラボ編集長 大久保亮佑

    ■目次

  1. プロフィール
  2. 提供サービス
  3. 購入可能性の高い人向けへのコンテンツが優先
  4. コンテンツ作りにおけるVOCの重要性
  5. コンテンツ発信する際にSNSを使う目的と内容
  6. より文脈を意識した情報発信が必要になるSNS
  7. ”SEO”の日本、”戦略”の海外
  8. 今後の展開

プロフィール

野口 聖晃氏:株式会社 日本SPセンター コンテンツマーケティングラボ編集長

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提供サービス

大久保:よろしくお願いします。早速ですが、御社はどのようなコンテンツを作っているのでしょうか?

野口氏:印刷媒体であればカタログやDM、新聞広告や雑誌広告などを、Webであれば運用を含めたサイトの制作を手がけています。またSNSの運用や動画の制作、はたまた従業員向け営業トークマニュアルやプレゼンテーション資料の制作など幅広くクライアントが必要としているコンテンツを手掛けています。現在は案件のおよそ6割がWebになってきています。

大久保:どのようなモノについてのコンテンツを作ることが多いですか?

野口氏:弊社が得意としているのはお客様が購入の検討をするにあたって、多くの情報を必要とする商材です。具体的には、家電や住宅などの耐久消費財やWeb系のサービスなど、価格帯が高く購入するのに商品に関する情報を参照しながら理性的な購入の意思決定が必要となるような商材です。

購入可能性の高い人向けへのコンテンツが優先

大久保:ユーザーが認知から購入するまでには様々なフェーズがありますが、全てのフェーズでコンテンツを作られているのですか?

野口氏:全てのフェーズでの制作実績はあります。ただ弊社がおすすめするのは、たとえば商品特長と関連する何かしらの問題意識を持っているような消費者、つまり将来的に購入につながる可能性が高い人たちに対するアプローチです。それがどんな人なのかペルソナを組み立て、どんなカスタマージャーニーを辿るのかについて検討していきます。この組み立てたカスタマージャーニーのうち、購買に近いフェーズからコンテンツを開発していくことが多いです。

大久保:コンテンツマーケティング実施に当たり、共通するフレームワークのようなものはあるのでしょうか?

野口氏:効くコンテンツをつくるため、弊社では、「購買態度変容コンテンツフロー」という枠組みをもってコンテンツマーケティングに取り組んでいます。購買態度変容コンテンツフロー

 

先ほど購買に近いフェーズからコンテンツを開発していくことが多いと申しましたが、基本クライアントは、弊社が詳細比較コンテンツと呼ぶような商品のスペックなど細かい情報をすでに用意していることが多いです。また「今が買い時コンテンツ」もキャンペーンなどを通じて準備されていることも多いですね。これらのフェーズにおけるコンテンツ開発をお手伝いすることもあるのですが、それらと同じくらい重要な軸が二つあると考えていますひとつが感情的な部分で「欲しい」と思ってもらうこと。もう一つは、必要性を学習してもらうこと。購買態度変容フローにおける③-1、③-2です。この二つの軸からなるコンテンツを、乱打しながらお客様の購買意欲を刺激することが重要、と考えています。もちろんこのフローが万能とは考えておりません。商品・サービスにまつわる情報を整理しながら、この枠組みをベースに適切なフレームを考えていきます。

この購買態度変容フローを含む弊社のコンテンツマーケティングへの考え方については、過去にアニメーション動画としてもまとめています。

コンテンツ作りにおけるVOCの重要性

大久保:そのなかでも、効果的なコンテンツがあれば教えてください。

野口氏:「購入者の声」といった事例コンテンツがとても効果的で、これまでも多く作ってきました。「Voice of Customer(お客様の声)」、VOCと呼ばれるものです。

キャズム理論の議論の中では、ボリュームゾーンであるアーリーマジョリティを攻略するには、支配できそうなニッチ市場とターゲットを攻略し、また別のニッチ市場を攻めながら徐々に拡大させていく戦略が有効と言われています。

彼らは「新商品が発売された」「こんな新機能が搭載」といったコンテンツでは動かないわけです。そのためこのニッチ市場のターゲットが抱えている情報ニーズに対応したコンテンツを提供する必要があるわけですが、その一つの類型としてVOCは非常に有用なのです。

またアーリーマジョリティ以降の層は自分と似た環境やステータスの人たちの行動に影響を受けるケースが多いといわれています。ですので「自分と似た環境にある人」や「近い関心を持っている人」がなぜ買ったのか、買った結果どうなのか、といった事例はかなり効果的だと思います。普及曲線

参照:http://contentmarketinglab.jp/content-marketing/diffusion-and-casm.html

また、VOCで面白いのは取材の中で新しい発見があることですね。事例を取材しながら、クライアントも気づいていなかった商品の訴求ポイントが見えてきたりすることがあります。

コンテンツ発信する際にSNSを使う目的と内容

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大久保:コンテンツを発信する媒体は色々ありますが、SNSはどのような目的で使われることが多いですか?

野口氏:認知目的が多いです。ただし、弊社が手掛けるコンテンツの場合、見込み客の抱える情報ニーズに対するコンテンツを提供しながら、自然と商品の良さを知ってもらうという戦略を描くケースが多いので、関心ある人たちにシェアはされることはありますが、大きく話題になるケースは比較的少ないです。

大久保:SNSにコンテンツを掲載する場合、どのようなコンテンツを作ることになるでしょうか?

野口氏:先ほど申したような、情報ニーズに対応したコンテンツを開発することがある一方で、そもそもその商品自体に競合にないような魅力がある場合などは無理に装わなくても自然と話題になるケースがあるのも事実です。

一時弊社内でも話題になったのは、海外事例になりますが、アメリカの家庭用ミキサーの会社「Blendtec」のケースです。商品の特徴を訴求しつつもバズるような面白い動画コンテンツを作成しており、ある意味お手本のひとつといえるかもしれません。

iPhoneをミキサーで砕く「Blendtec」の動画コンテンツ

より文脈を意識した情報発信が必要になるSNS

大久保:同じコンテンツでも、SNSとカタログで見せ方が違うと思います。チャネルごとにどう最適化していますか?

野口氏:立ち返るべきはペルソナだと思っています。すでに発売されているなら、商品はどのような人がすでに購入しているか、というファクトを手がかりにしながら、ペルソナを考える。そしてそのペルソナが関わるだろうチャネルを考えます。ペルソナの精度が高まればチャネルもおのずと最適化されていくと考えています。

オウンドメディアに公開されたものをSNS上でシェアする場合、気を付けているのはよりユーザーの文脈を意識する点です。検索エンジンからの流入する場合、ユーザーは自身の情報ニーズに基づき能動的にコンテンツへたどり着きますが、SNSの場合はより受動的なはずです。ですから、よりユーザーがタイムラインで流れてきた情報を見て、サイトに飛んでもらうためには「そのコンテンツがどう役立つのか」といった一段引いた視点からのメッセージが非常に重要と感じています。

”SEO”の日本、”戦略”の海外

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大久保:日本は海外よりもコンテンツマーケティングに関して遅れていると聞きますが、どのような違いがあるのでしょうか?

野口氏:遅れているかどうかは一概には言えないと思いますが、捉え方が若干異なる、と感じています。日本でコンテンツマーケティングというとSEOと関連して言及されることが多いように感じますが、海外だとコンテンツマーケティングの戦略の方がより重要視されているようです。事実日本で「コンテンツマーケティング」で検索するとSEOに関わる情報が多いですが、英語圏の方で検索してみると「Strategy」、戦略をどうするかといった内容の記事が多いのです。これは大きな違いだと思います。01

そもそも日本における「コンテンツマーケティング」は、検索エンジンの性能が向上し、コンテンツが大事だと言われるようになった頃から バズワード的に広まってきたように感じています。一方、海外ではずっと昔から考えられてきた概念なのです。100年以上前に発行された農機具メーカーの情報誌にまでさかのぼることができます。消費者にとって関心ある情報を提供しながら、いかに商品購入に結びつけていくか、というテーマがアメリカで語られるコンテンツマーケティングには常に横たわっているように感じています。

だからこそ、「そのためにどうするか」という考え方やストラテジーがアメリカでは深く根付いているのではないでしょうか。加えてアメリカでの調査結果によると、効果的にコンテンツマーケティングが機能している、と回答している企業ほど戦略をもっていることがわかっています。そんな背景もあるのかもしれません。

今後の展望

大久保:それでは最後に、日本SPセンターの今後の展望を教えて下さい。

野口氏:弊社はこれまで、アメリカの広告に学びながら、40年以上にわたりクライアントのコンテンツ開発のお手伝いをさせていただいております。「効く」コンテンツを追求していく中で、2000年代後半にコンテンツマーケティングという考え方に出会いました。この考え方は弊社がこれまで長く培ってきたコンテンツへの考え方と非常にフィットすると感じています。2012年には「コンテンツマーケティングラボ」というWebサイトを立ち上げました。このサイトを通じて新しいお客様とお話させていただく機会をいただいております。そうして積み重ねた知見をもとに、昨年12月には書籍「Webコンテンツマーケティング サイトを成功に導く現場の教科書 」を出版することができました。また世界最大級のコンテンツマーケティング関連のカンファレンス、Content Marketing World(CMW)のメディアパートナーとして、日本でのイベント告知も実施してきました。今年9月に開かれるCMW 2016の告知ページも間もなく公開する予定です。最新のコンテンツマーケティング情報をキャッチアップしながら、戦略からWeb・印刷媒体問わぬ形でのコンテンツ開発までワンストップで請け負える会社として今まで以上にお役に立てればと考えております。