ソーシャルの力で教育は変わる!?個人の能力に最適化した『アダプティブラーニング』が今、注目されているワケ。
2015/03/05
こんにちは、ソーシャルメディアラボの渕上です。
当ブログではFacebookやX(Twitter)といったSNSに限らず、ソーシャル要素を持つメディアやサービスにも着目し、“ソーシャル×◯◯”という観点で面白いと感じたプロダクトについての調査・分析も行なっております。
今回は“ソーシャル✕教育”をテーマに、ここ数年で大きく伸びているソーシャルラーニングについて調べました。ソーシャル機能の充実は個々人の学習にも影響しており、画一的な一斉教育では補いきれない分野、もしくは伸ばすことができない分野に適合する、進化したソーシャルラーニングシステム『アダプティブラーニング』に注目が集まっているようです。
アダプティブラーニングが創る新しい教育の世界とはどんなものなのか、調査資料を元に解説してみたいと思います。
■目次
アダプティブラーニングが変える教育の仕組み
1.ソーシャルラーニングって何?
2.パーソナライズされた学習環境の構築が可能に
3.オーダーメイド学習法『アダプティブラーニング』
4.アダプティブラーニングの代表的なサービス
5.まとめ
ソーシャルラーニングって何?
フォーマルとインフォーマル
アダプティブラーニングにふれる前に、まずは簡単にソーシャルラーニングそのものについて解説しておきます。
勉強や学習と聞くと多くの方は、専門知識を持った先生が学校などの固定された場所で授業を行い、生徒は各々ひとりで机に向かいながらノートをとる姿を思い浮かべるのではないでしょうか。これを「フォーマルラーニング(=公式な場所での学び)」と呼びます。
一方で、私たちは社会の一員としていろんな人々や組織と交わり、その中で知識を学んでいくこともあります。さらにFacebookやX(Twitter)などのソーシャルメディアが日常的に使われるようになると、それをツールとして交流は広がりを見せます。インターネットが普及することで集合知にふれることも簡単になり、もはやリアルでの肩書きや地位は意味をなさず、学び合う関係がつくりやすくなりました。こちらは「インフォーマルラーニング(=学校では教えてくれない非公式な学び)」と呼びます。
これまで就職・転職など、社会に評価されるのは専らフォーマルラーニングでの成果で、インフォーマルラーニングの評価は一段低いものと見做されていました。しかし、世界中全ての人がフォーマルラーニングで学べるわけではありません。インターネットが普及し、数々のソーシャルメディアが誕生した今、学びの機会をフォーマルに委ねる意味はあるでしょうか。
出発点はそこにありました。
ソーシャルラーニングで高卒資格取得も可能に
ソーシャルラーニングをメイン事業として取り組む企業も出てきました。例えばキャスタリア株式会社が運営する「iUniv(アイユニブ)」というサービスでは、国内外の大学が公開している講義の動画コンテンツを公開しています。動画本数は7万本を越え、利用者は自由に動画を閲覧して学ぶことができます。ポイントは「独学で終わらない」ということ。「Fusen(フセン)」というコメント機能で、他の利用者と情報や成果を共有できるようになっています。
その後もこういったソーシャルラーニングサービスは増え続け、最近では「SCHOO(スクー)」「gacco(ガッコー)」といったウェブ上で生放送の授業を行なうサービスが人気のようです。どちらも受講者同士、ないしは講師とコミュニケーションを取ることができ、ソーシャル機能が学習に活かされていることがわかりますね。
またインターネットを利用した新しい通信制高校として、学校法人花沢明聖高等学校が運営する『サイバー学習国』が今年の春に開校します。
これは、自分のアバターをつくってウェブサイトで公開される動画で高等学校の授業を学び、3年後の卒業時には高等学校の卒業証明書も発行されるという“本物の学校”です。ソーシャルラーニングの仕組みを利用した学校も登場するとは、驚きですね。
パーソナライズされた学習環境の構築が可能に
前述のように、勉強や学習の方法はひとつではなくなりました。今後オンラインで学べることが増えていけば、個々人が自分の学びたいことを、自分に合った学習法で学ぶのが当たり前になるかもしれません。
といっても、そもそも大人になれば人は学びたいものを自分で選ぶことができるようになります。学び方も同じで、独学が向いているのか、スクールに通ったほうがいいのか、マンツーマンで教わるのがいいのか、留学してしまった方がいいのか……お金を別にすれば、自由に選択できるので問題はありません。
しかし、これが学校での授業となると話は別です。
学校での授業は画一的です。同じ年齢の全生徒が、同じ教科書で、同じ授業内容を、同じように学ぶ。一人の先生に対し数十人の生徒を担当するわけですから、授業が画一的になるのは否めません。これは良し悪しというより、構造上仕方のないことでしょう。
ソーシャルラーニングを進化させた、アダプティブラーニング
ICT(情報通信技術)の向上により、ついに学校にもその技術が導入され始めています。電子教科書やタブレットを使った授業や、プログラミングを取り入れている学校がすでに出てきていますよね。
これが意味するところは、個々の生徒にパーソナライズされた学習環境を用意することができる、ということです。
生徒はひとりひとり好きな科目も違えば苦手な科目も違います。得意科目であっても苦手な単元があることもあります。そもそも勉強法も生徒によって向いた方法は違います。ここにICTを取り入れることで、生徒それぞれに合わせた学習が可能になります。
それがソーシャルラーニングを進化および深化させた、アダプティブラーニング(=適応学習)という勉強法です。
オーダーメイド学習法『アダプティブラーニング』
「アダプティブ」とは最適化を意味しています。つまり、学びたい人ひとりひとりに最適化された学習の自動提供を実現しようとするのが「アダプティブラーニング」です。
基本的に授業では、教科書は頭から読み始めますし、学習ドリルは順番に進めていきます。しかしそのやり方では生徒が得意とする科目を伸ばすことができませんし、苦手とする科目を克服することも叶いません。それぞれの学習進度に特化するには、ソーシャルラーニングを更に最適化したアダプティブラーニングが適しているでしょう。
電子教科書の利点は、ログ(データ)が取れること
例えば電子教科書であれば、得手不得手に対応して、自分にとって重要な単元ごとに買うことも可能となります。電子教科書には批判も多いかと思いますが、紙と違い学習進度のログをデータとして残せるところは非常に優秀ではないでしょうか。何が得意でどこでつまづいているか、解答速度はどうかなど、幅広くデータを蓄積することで学習進度が明確にわかるようになります。
ログが取れるのは重要で、客観的なデータを取れると人はその結果に納得しやすいものです。
これは「学び方」についても同様で、万人に向いた学び方があるわけではありません。どれだけ紙に書いても覚えられないことが、ゲーミフィケーションを導入した勉強アプリケーションでならすんなり覚えられるということもあります。
結果が同じならプロセスが違っていても問題ありませんよね。従来の学校教育では難しいかもしれませんが、アダプティブラーニングなら学習レベルだけでなく、学習方法についても最適化が可能になると言われています。
ソーシャルラーニングから延長線上に伸びたアダプティブラーニングには、もちろんソーシャル要素も多く含まれています。単純な成績の競い合いもできますし、わからない問題に対して相互学習も可能です。独習もOKですが、やはり基幹となるのは「学び合う」という発想なのでしょう。
アダプティブラーニングの代表的なサービス
Knewton
最も規模の大きい代表的なプラットフォームサービスが、こちらの「Knewton」。
その特徴は「Continuous Adaptivity(継続的なアダプティヴィティ)」。個々の学力や理解度と学ぶべき対象をマッピングし、その個人に最適な道筋を示すシステムが導入されています。インプットが変わればプロセスも変わり、アウトプットも当然変わります。このシステムももちろんそれに対応し、学習進度によって可変していくというとんでもないレベルで運営されているようです。
※参考記事:一人ひとりにあった学習を実現! 教育業界の新潮流「アダプティヴラーニング」
fishtree
アメリカ発のアダプティブラーニングシステム「fishtree」
2015年1月27日にリクルートが出資したというリリースが流れ、日本でも大きく話題になりました。
Fishtree Inc. は「同じ教材を全ての生徒に」ではなく「一人ひとりの生徒に合った教材を」というビジョンを掲げています。fishtreeはアメリカや韓国ではすでに多くの学校法人に導入されており、これからの成長が見込まれていますね。また、ソーシャルラーニング機能も強く、生徒間・先生間・生徒と先生間もコミュニケーションを促進してくれます。
RICS(Ritsumeikan Intelligent Cyber Space) プロジェクト
こちらは立命館守山が現在進めているアダプティブラーニングプロジェクトのひとつです。
学校現場においてSNSとアダプティブラーニングを用いたICT環境を教育プログラムに取り入れる試みは、日本ではこの立命館守山が初めて。2014年5月から始まっており、次年度を迎える今年、どれほどの成果が出たのか発表が気になるところです。
立命館守山は、アダプティブラーニングを取り入れた本プロジェクトの狙いをこう述べています。
RICSプロジェクトにおけるアダプティブラーニングやSNS機能を通じ、生徒たちは、知識を深め、学力を高めるとともに、主体的に学ぶ習慣を身につけることが期待されるほか、仲間とともに学びあうことで、協働する力も向上します。これらの力は、グローバル人材に必要と言われるPISA型学力の向上につながっていくと考えます。
また、蓄積された学習記録や行動履歴は、ポートフォリオとして中高大一貫教育で共有化するとともに、教員の学習指導力の向上にも役立てていきたいと考えています。本プロジェクトは、立命館守山が目指す人材育成を大きく後押しするものです。
蓄積された学習記録・行動履歴をポートフォリオとし中高大一貫教育で共有化する、つまりログを活用するということですね。日本はアダプティブラーニングに関して遅れていることもあり、立命館守山のプロジェクトには要注目です。
まとめ
さて、ここまでソーシャルラーニングおよびアダプティブラーニングが創る教育の未来について述べてまいりましたが、長い間変化を拒んできた教育現場の体系化がすんなりと進むものでしょうか?
アダプティブラーニングは始まったばかりの試みであり、技術的にもまだ未開拓な面の多い領域であることは確かです。しかしそれだけに、ICTをどう活用できるか未知数なところが多い、チャレンジのしがいのある領域でもあるのではないでしょうか。
教育が変われば国が変わります。経済成長に期待できない今の日本を盛り上げることができるのは、今は学問の徒である若い世代。日進月歩のICT・ビッグデータ技術、そしてそれを活用できるインフラは整いつつあります。
アダプティブラーニングの新しいアイデアは、案外、今学んでいる最中の人たちから生まれてくるのかもしれませんね。
※参考記事:
一人ひとりにあった学習を実現! 教育業界の新潮流「アダプティヴラーニング」
以上、『ソーシャルの力で教育は変わる!?個人の能力に最適化した『アダプティブラーニング』が今、注目されているワケ。』でした。
この記事を書いた人:ソーシャルメディアラボ編集部