【後編】花王から学ぶ「絆づくり」のためのコミュニティ運用術|ネガティブ意見も「リピート購入」へつながった!

2012/08/02

前編の『花王から学ぶ「絆づくり」のためのコミュニティ運用術【前編】|こうして「製品の事を語りたい!」とユーザー自ら言ってくれるようになった。』に続いて、花王さんのFacebook活用のインタビュー記事をお届けします。

この後編では、以下の内容についてご紹介します。

■目次

1.ソーシャルメディアとクローズドコミュニティの使い分け

2.ママのためのクローズドコミュニティ「GO GO pika★pika MAMA」とは?

3.サークル数26個!コミュニティ設計の基盤づくりの工夫

4.参加したくなる雰囲気作りの工夫

5.相談センターへの電話でわかった事実:お客様は製品について語りたがっている

6.製品のためのサークルでわかった3つの真実  ←ここまで前回記事

7.ネガティブな意見発生!でも「苦手」が「リピーター」になった理由 いまここ。

8.ユーザーと「友達になれる」コミュニケーションのコツ

9.8年間でユーザーの利用環境はどう変わったか

10.クローズドコミュニティとオープンソーシャルメディアの融合

11.ヘルシア「健康チャレンジキャンペーン」の成功理由

12.インナーブランディングの重要性

7.ネガティブな意見発生!でも「苦手」が「リピーター」になった理由


花王株式会社 板橋さん :

「GO GO pika★pika MAMA」の中で初めて製品サークルを開設した際にネガティブな意見を投稿された事もありました。それは「柔軟剤の香りがきつすぎて、香水をかけすぎたみたいになった」というものでした。

香りというのは、好みで好き嫌いが分かれるものです。こういう意見があることは予想していたので、モデレーターとしては特に何もせず見守っていました。

しかし、そのあと、他のママがその投稿に対して「洗濯機の水の量と利用量はあってる?私も最初間違えて入れ過ぎて匂いがきつくなったから、確かめてみて!」というコメントをしてくれたのです。

そうしたら元の投稿をした方が「入れる量を間違えていた」ことに気づき、正しく使ったらよくなったことをコメントし、その後は「どの店だと安い」などという情報交換もしていました。「苦手」から「リピーター」になった瞬間です。

メーカーの立場からモデレーターとして説明するよりも、ママ同士で同じ立場から情報をシェアして、問題解決をしていくという流れがあったのは、コミュニティならではの事例です。

コミュニティの要「モデレーター」に応援団が!

フレアの製品サークルの反応が良かったため、製品サークルの第2弾を開設しました。コミュニティと親和性の高い製品であるメリーズの「するりんキレイおしりふき」の改良について語りあう「するりんキレイラボ」というサークルです。

3ヵ月限定で開設して、こちらはサンプルを配布しその使用感を元に「お客様と一緒に製品開発しよう」という気持ちで作りました。

この時のモデレータは、「あおちゃん」という花王のプレママが担当しました。先輩ママたちのご意見をお聞かせください、という立場からサークルを盛り上げたのですが、運営するうちに「あおちゃん」のファンがたくさん出来ました。先輩のママたちが妊婦である「あおちゃん」の「応援団」のようになって、体調を心配してくれたり、電話をいただいたりもしました。

サークルとしても、様々な意見交換がされましたし、その商品が近くの販売店に置いていなかったので置いてもらうように店に依頼してくださったという方もいらっしゃいました。

期間限定だったので、終了するときには「残念」「寂しい」「あおちゃんの出産が心配」という意見を頂いたりと、エンゲージメント構築に成功した好例になりました。

8.ユーザーと「友達になれる」コミュニケーションのコツ


ガイアックス 井出 :

企業コミュニティとして理想的な関係が企業とユーザー、ユーザーとユーザーの間で構築されていますが、コツはどこにあるとお考えでしょうか?


花王株式会社 板橋さん :

人の集まりですから、やはり言葉の選び方、お願いの仕方などを少しでも間違えると、空気や雰囲気が悪くなってしまいます。

私たちは、お客様とどうやってお友達になるか、お話をするかを常に考えて運用して来ました。この意味では、コミュニティを盛り上げていくモデレーターの役割はとても重要です。

テーマについて、ユーザーと同じ立場でどれだけ話ができるか、体験しているかということがとても重要ですし、先輩としてアドバイスできるような経験も必要です。

9.8年間でユーザーの利用環境はどう変わったか


ガイアックス 井出 :

コミュニティ開設された時から8年が経ちましたが、ユーザーのコミュニティの利用などに変化はありますか?


花王株式会社 板橋さん :

利用者の変化は大きいですね。これは、オープン当初のサイトの画面ですが、当時はユーザーからメールで投稿してもらって、悩みを一緒に解決したりしていました。当時の悩みの中には「赤ちゃんの肌着とパパの下着を一緒に洗ってもいいの?」というものがありました。こういった情報を交換できるような場がどこにもなかったのです。

当時は、近所の友達、保育園の友達、学生時代の友達などで情報を交換することがほとんどでしたし、Web上の専門サイトとしては、「ベネッセウィメンズパーク」がありましたが、他には小児科や産婦人科の病院の先生が監修しているような権威的なページくらいしかなかったのです。

もちろん、ソーシャルメディアの普及やデバイスの進化といった環境の変化も大きいですね。

10.クローズドコミュニティとオープンソーシャルメディアの融合


ガイアックス 井出 :

今後クローズドなコミュニティだけではなく、FacebookやX(Twitter)などのオープンなソーシャルメディアの活用や組み合わせはどのようにお考えですか?


花王株式会社 板橋さん :

そろそろFacebookやX(Twitter)活用に向けての機が熟してきたと思います。

サイトのリニューアルも予定していて、その時にはFacebookやX(Twitter)などのソーシャルメディアアカウントと連携できるようにしたいと考えています。

また、写真の投稿なども出来るようにしたいです。ただ、「青少年健全育成条例」の中でネット上での子どもの写真を規制するようになりましたので、今後はこうした写真投稿についても注意が必要です。

私が所属するSNS室というのは、今後ソーシャルメディアに力を入れていくにあたり、今年の5月にできたばかりの部署です。クローズドなコミュニティだけでなく、オープンなコミュニティも取り入れて新しいことに取り組んで行こうとしています。まずは知見を蓄積していく必要があります。

「GO GO pika★pika MAMA」の中では、赤ちゃんの時期を過ぎると卒業になってしまうので、その後の子どものステージに合わせたコミュニティが欲しいというご意見もあります。あるいは先輩ママと現役ママが情報交換できるような場を作るのもよいかなと思います。

オンライン上でお客様との関係を構築できないというのはメーカーとしてリスクと考えています。競合する他のメーカーが先にお客様と関係を作ってしまったら、後からはなかなか入り込めなくなってしまいますから。

11.ソーシャルキャンペーンの成功事例ヘルシア「健康チャレンジキャンペーン」の成功理由


ガイアックス 井出 :

「ヘルシア」のキャンペーンでは、ソーシャルメディアをどのように連携させたか教えて頂けないでしょうか?


花王株式会社 本間さん :

ヘルシアは長期的なキャンペーン施策として行なっています。

すでに2回「健康チャレンジ」を行っていて、「12週間健康チャレンジ!」に歩いた距離と体重を記録していくという企画を行いました。サイトはX(Twitter)とFacebookと連動しており、ソーシャルメディア上で情報を共有することができますし、ユーザー同士で応援することもできます。

ヘルシアという商品は、飲めばそれだけで体重が減るようなものでもなく、医薬品でもありません。あくまで、ヘルシアを飲んだ上で脂肪燃焼する運動を継続的に行わないと、効果は出ません。だけど、毎日続けるのはつらいですよね。

なので、自分一人じゃなくて、同じ目的で取り組んでいる人たちとつながって、競争したり応援しながらチャレンジすることで、続けられるようにしています。

ソーシャル空間上で、見知らぬ人であっても、同じ境遇の人がいることが分かれば継続性が保たれます。実は、参加者の中にもいろいろな役割の人がいて、チャレンジする人もいれば、応援するだけの人もいる。参加者にとっては、いろいろな人がいることで勇気づけられることになります。


花王株式会社 板橋さん :

実際に過去の参加者の皆さんからは「応援されて嬉しかった」「応援してくれる人がいたからがんばれた」という声が寄せられています。

みんなが1つの目的に向かって、つながりながら頑張れるという事に大きな価値があると思います。


ガイアックス 井出 :

これまでの2回の開催で、開催中は売上がこれだけ上がったというような数値的な成果は見えましたか?


花王株式会社 本間さん :

ヘルシアの売上が伸びていることは伸びていますし、フォロワーも増えていますので、ポジティブな影響はあると思っています。

しかし、直接的な効果というのは言いづらいというところです。本当なら、何千人が参加すると、1日にこれだけ売上本数が上がるというような計算式を期待されるのですが、その算出は不可能です。

それは商品の特性もあって、お客様のほとんどがコンビニエンスストアなどの販売店を通して、その場で判断しながら購入します。それに売上には気温変化の影響が大きく、お客様は喉が渇けば購入しますし、そうでなければ購入しないからです。

12.インナーブランディングの重要性


ガイアックス 井出 :

今後の取り組みとしてどういうことを意識されていますか?


花王株式会社 本間さん :

企業としてソーシャルメディアやコミュニティを運用する人の大前提として、コミュニケーションが好きである事が挙げられます。

そしてもう一つ欠かせないことが、その人が企業のことを深く理解していることです。ソーシャルメディアは外部に向けたブランディングであるけれど、その前に、社内で共有されるようなインナーブランディングをしっかり行うことがとても大事です。

最初に中をソーシャル化して企業文化を共有する。そしてそれが、コミュニティを通して、外にしみでて多くの人に伝わっていくのだと思います。これには長く時間がかかります。先進的な取り組みをしている企業のほとんどが、社内での情報共有やコミュニケーション面などにおいて、ソーシャル化できています。

花王は生活者に商品を販売するという意味でB2Cの企業ですが、実際にはほとんどが販売企業との取引で、社内的にはB2Bです。お客様の前に直接立つことが少ないので、お客様とのコミュニケーションに慣れていないという社員も多いのです。

時につらい顔も見せられるくらい正直なブランドマネージャー

本来、お客様と直接話す時には、ブランドマネージャーのようなその商品を知り尽くしている人が本音を伝えたほうがよいと思います。私たちのような広報、マーケ系の部署は、報道官のようになってしまうので、入らないほうが良いこともあります。

企業が外に向けて情報を発信するとき、「つらい顔」は見せてはいけないという側面がありましたが、それが変わりつつあることを感じます。

例えば、投資家の方には怒られるかもしれませんが、「○○が売れない、どうしたらいいのだろう」と正直にいったほうが、ユーザーに思いが伝わって、ユーザーから見ると応援したくなるかもしれません。

こうしたことも含めて、花王のインナーブランディングというのを改めて考えて、社内で共有していかないといけないと思います。

現実の問題として、スーパーなどの量販店において、食品と比べると日用雑貨はそれほど売れるものではありません。結果、スーパーが販売に力を入れられないので、食品担当者が日用雑貨も兼務することもあります。販売陳列などは、食品に比べると工夫できない場合が多いでしょう。

こういう現状があるからこそ、我々メーカーがお客様と直接オンライン上で対話することに大きな価値があると思います。お客様の意見を聞きながら、商品を生み出すような関係が作れたら良いですね。

ブランドマネージャーが直接お客さんとつながり、意見や体験を交換するような2Wayのコミュニケーションが進むような体制づくりをしたいです。


以上、『【後編】花王から学ぶ「絆づくり」のためのコミュニティ運用術|ネガティブ意見も「リピート購入」へつながった!』でした。

(執筆/編集 井出一誠 :FacebookX(Twitter) )

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この記事を書いた人:ソーシャルメディアラボ編集部

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